「独自製造ノウハウの積極Web公開」、新規顧客を増やすバネ製造会社業種は違えど、ヒントを得られる(2/3 ページ)

» 2005年10月24日 07時39分 公開
[山路達也SOFTBANK Creative]

 早くからコンピュータを導入した東海バネ工業は、大きなアドバンテージを得た。

 「何万個という注文ならどこのバネメーカーも手を挙げますが、1個だけの注文を受けられるのはうちくらいのものです」(渡辺氏)

 完全受注生産のシステムは完成し、業績は順調だった。同社は創業以来一度も赤字決算がないという。

東海バネ工業の基幹システム概略図 東海バネ工業の基幹システム概略図

 しかし、渡辺氏は危機感を感じていた。それは、完全受注生産システムはあくまでも「守り」のシステムであるということ。顧客満足度は大きく向上したが、新規顧客からの注文が爆発的に増えるわけではない。ISO9002、9001、最終的には14001まで取得するが、それらが新規顧客の獲得に直接結びつくわけではなかった。

 そんな時、システムベンダーから、大阪産業創造館の西岡IT塾に申し込むことを勧められた。この選考に通ると、情報系・経営系の2人のITコーディネータが派遣されてきた。2002年4月から半年間、2人のITコーディネータは、東海バネ工業の経営をあらゆる側面から分析し、どう改善すべきか渡辺氏に助言した。その内容は、渡辺氏にとって驚くべきものだった。

「在庫は持たない」「ノウハウは外に出す」

 これまで東海バネ工業は、2つの方針を頑なに守り続けてきた。1つは、豊富な在庫。もう1つは、製造のノウハウを社外に出さないことである。

 前者については、同社で製造している製品は特殊なものが多いから。そして後者は、独自のノウハウこそが命綱と考えていたからだ。しかし、2人のITコーディネータは、「材料在庫の削減」「ノウハウの公開」という、まったく逆のことを提言した。

 大量の材料を必要とする同社は、不足を恐れて値切らずに材料を購入していたが、そのためキャッシュフローは良好とはいえなかった。

 「材料は全部抱える必要はないのだと。例えば、こういう材料が必要だと世界中に発信することで必要なだけ調達することもできます。要は、鋼材メーカーに対する今までの考え方を転換すればよかったのです」(渡辺氏)

 3年間で25%の材料在庫を削減する目標を立てていたが、昨年1年だけですでに17%の削減ができたという。

 もう1つのノウハウ開示については、持っている情報をWeb上ですべて開示にすることによって集客し、Webから単品注文を取れるようにするということであった。独自ノウハウをウリにしてきた同社にとっては抵抗感のある提言であったが、会社のページを全面的に作り替えた。バネについての技術情報を分かりやすく公開し、バネ設計に便利な支援ソフトも無料で提供。さらに、バネに関する質問を誰もが自由に行えるようにした。

 その効果は如実に現れた。昨年1年間で、国内企業の開発部門や、大学の研究室など、全部で106の新規顧客を獲得。金額にして3000万円分を新規に受注した。さらに、今年は半年だけですでに100社の新規顧客から注文を得たという。情報を公開することによって、顧客に同社が持つ技術力を知ってもらえる。顧客としては、難度の高い注文を安心して任せられると考えるわけだ。

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