ユニークなのは、同社が保有している材料在庫までWeb上に公開し、販売も行っていることだ。同業他社や個人であっても、これらの材料を購入できる。
「ITコーディネータには、ボブ・サップになりなさいといわれました。相手がボブ・サップなら、誰も最初からケンカをしようと思わないでしょう。それだけのものがうちにはあるのだから、怖がらずに外に出せばいいのだと」(取締役 夏目直一氏)
先述した通り、同社の注文の8割は前回品なので、これを活用しない手はない。従来システムと連携し、Web上で既存顧客からの注文を受けられる「リ・オ・ダ」システムも9月から稼働をはじめた。既存顧客にはIDとパスワードを発行し、顧客が自分で注文履歴を閲覧したり再注文できる。
同社の製品はすべて受注生産なのでどうしても既製品よりは納期が長くなる。しかし、生産に着手するまでの時間をできる限り短縮し、既製品を買うのと同じ感覚でフルオーダーのバネが買える態勢を整えている。
改善は、社内の組織構造にまで及んだ。営業組織は、従来の地域別から機能別に再構成した。社員それぞれの得意分野を生かし、よりスピーディに情報が流れるようにしたのだ。
社内情報はメーリングリストやグループウェアで共有し、営業の人間も技術情報にすぐアクセスできる。新規取引の審査承認はグループウェアですぐに行われる。これにより、顧客から問い合わせをもらったら、即座に見積を送り出せるようになった。
「お客さまへの対応をスピードアップしますと、それに比例して受注率も上がっています」(夏目氏)
見積決定率は、昨年1年間の平均で48%。今年前期は55%と、他社と競合になっても2件に1件以上は受注できていることになる。
渡辺氏に、中小企業のIT導入はどうあるべきかをうかがった。
「各社それぞれの経営目的を明確にすることがスタート地点です。流行だからといって、確固たる目的なしにITを導入しても大きな効果が得られないでしょう。必要なのはもしかしたらITではないかもしれません。弊社は、多品種受注生産というビジネスモデルの実現のためにITを使えた幸運なケースではあると思いますが」
そして、バネ業界ひいては製造業全体についての危機感を表明する。
「バネの国内生産の80%は自動車、家電、弱電で使われています。日本を世界に名だたる経済大国に引き揚げた業界がバネをお使いなんですね。いってみれば、バネメーカーは発注元のニーズに追随して成長してきたわけです。ですが、もうニーズ追随型ではダメです。逆にお客さんを刺激する、そういう下請けメーカーにならないと生きていけないと痛切に感じています」
「これからは、見込み発注、まとめ買いをしてくれるお客さんも少なくなるでしょう。また、そういう発注をするお客さんは、この変化する状況の中で、発展していくでしょうか? 大量生産をしなければならない企業は、人件費の安いところに追い込まれていってしまうでしょう。難しい製品をわずかな数だけ購入する、そんな厳しい買い方をするお客様に満足していただけるメーカーにならないと。数をまとめていただいたら、値段をサービスしますというビジネスでは、これから生き残ることはできないでしょう」
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