人生のやり直しが可能に? ライフログが紡ぐ未来(2/2 ページ)

» 2005年11月12日 00時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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現実的なライフログの実現方法を求めて

 VRを実現するための出力装置は、没入型多面ディスプレイだけではない。このほかにも、体に直接装着するヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)などがある。超小型ディスプレイをメガネのように装着し、両目の視差を利用して立体的な視覚を得ようというのがHMDだ。HMD市場の動向はこちらこちらの記事が参考になるだろう。

オリンパスが2001年に発表したHMD「Eye-Trek」。その後も進化を遂げ、さまざまな機能拡張が行われている(オリンパスのホームページより)

 バーチャル・リアリティというと現実と区別がつかないほどの仮想空間を想像しがちだが、現時点ではそこまでの精度を持つVRは存在していない。また、きゅう覚や味覚、触覚など、デジタル化が困難な要素も依然として多く残る。こうした現状もあり、現在のVR研究の主流は、よりリアルに近づけるという方向ではなく、現実世界を基にして、電子的な仮想データでこれを補う体験をさせる複合現実感(Mixed Reality:MR)と呼ばれる方向に向かっている。没入型多面ディスプレイはHMDと比べ、広視野の映像空間を映し出せるなどのメリットはあるが、現時点でライフログに適しているデバイスとしては、HMDに軍配が上がるだろう。

 HMDであれば、画面のサイズもQVGA(320×240ドット)程度で済むため、そのデータ量を大幅に減らすことができる。ビットレートを調整したり、使用目的に応じた加工を行うことで、その総量を0.5ペタバイト、つまり500Tバイト程度まで抑えることが可能になる。

 100MバイトクラスのHDDが10万円程度だったのが1993年ごろ。それから約10年で、価格は10分の1、容量は1000倍になった。仮に容量が同じペースで増加し続けるとすれば、現在、コンシューマー向けのPCに搭載される一般的な250GバイトのHDDが500Tバイトつまりその2000倍の容量を持つのは、約11年後と考えられる。もちろん、例えば就職から定年までなどのように限定した期間を記録するのなら、あと数年もすればコンシューマー向けのPCに搭載されるHDDでもライフログが実現可能となるだろう。

ライフログの利用上の問題点

 記憶という存在の概念を大きく変えかねないライフログだが、実際の利用においてはさまざまな問題点や課題が存在する。

 例えば、ライフログを活用していくにあたっては、単に高精細な映像だけをアーカイブしているだけではだめであろうことは容易に想像できる。過去の体験に没入するのが目的であればそれでもよいだろうが、過去を分析しようとする場合は、必要なシーンを体験できるよう、検索などを行うためのメタデータも記録しておく必要がある。前述のMyLifeBits Projectが記録対象としていたような内容を、映像の内容とリンクさせるような方法が必要となるだろう。

 また、プライバシーの問題についても課題が存在する。撮影者の視点に写る第3者は、承諾なしに記録されることになるからだ。前述のDARPAでも、かなり以前からライフログの研究を行っていたが、当初想定されていた情報の記録範囲はかなり広範なものだった。このことが人権擁護団体などからの猛烈な反発を招き、2004年1月にプロジェクトは中止されている。現在の研究は、記録対象を戦場での兵士の情報のみに限定することを明言した「先進的兵士センサー情報システム技術」(ASSIST)なのである。

 「ライフログはブログの延長」と考える読者もいるかもしれないが、これまで見てきたようにブログとは大きく異なる性質もある。現在、多くの研究者がライフログに関する研究に着手している。私たちの記憶が保存される日もそう遠いことではなさそうだ。

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