「地球シミュレータ」は東京を長周期地震動から救えるか――地球シミュレータと耐震ビルがつながる未来コンテンツ時代の未来予想図(2/6 ページ)

» 2005年11月22日 13時28分 公開
[中村文雄,ITmedia]

地球シミュレータで60億個の格子のシミュレーション

 新潟中越地震のシミュレーション手法を紹介しよう。

 ここでは差分法と呼ばれるシミュレーション方法を採用しており、新潟から関東までの地域を深さ10キロまでは200メートル、深さ10キロから160キロまでは400メートルの3次元のメッシュで分割した。それらのメッシュで区切られる約60億個の格子があり、そこに地震波の伝播速度、岩石の密度、地震波の減衰定数などの関連データを入力して、地殻モデルを構築する。入力データは地下探査の計測データ、過去の地震の観測データなどから設定される。

 震源近くの観測データから断層が滑った震源モデルを用意し、地殻モデルと地震波伝播の計算式を地球シミュレータに入力することで、シミュレーションが可能になる。

 震源モデルは断層がどう滑ったかを表すものだ。震源というと一点のようだが、断層が滑る面のことであり、3次元的な動きをする。断層は平均秒速2.5キロ前後で数十キロから数百キロという距離を滑る。そのスピードは一定ではなく、ある場所ではゆっくりとなり、別の場所では速くなる。

 断層の滑りの様子を地震計の測定データから正確に把握することは難しい。例えば、2004年9月に起きた紀伊半島南東沖の地震では、断層の滑った方向はよく分からない。震源近くの海底には地震計がなく、断層方向を特定できるデータが入手できなかったからだ。

 地殻モデルは200メートルと400メートルというメッシュで構成したが、このサイズは地殻モデルでは細かい方だ。東京周辺は地下探査が進んでおり、比較的詳細なデータが得られるが、それでも200メートルごとの詳細データをすべての地域で得られるわけではない。ましてや、そのほかの地域では200メートルごとのデータの入手は難しい。

 地震調査のための地下探査では数キロにわたる断面の性質を調査するが、1回の地下探査で数千万円から数億円の費用がかかるため、広い地域で詳細なデータを得ることは難しい。探査を行った近くの断面データから、各格子のデータを推測して挿入していくのだ。

 このように震源モデル、地殻モデルのデータがある程度の幅を持っているため、それらを現実に合わせてチューニングする作業が必要となる。

 地殻モデルが適切に設定されていないと、算出した地震波は明らかに不自然な挙動を示し、現実と一致しない。それは実際に起きた地震の観測データと比較することで調整できる。そのため、観測データ、地下探査データ、シミュレーションデータの3種類のデータの照合・調整を繰り返して、地殻モデルのチューニングが根気よく行われる。

 ここに掲載した新潟中越地震のシミュレーション結果は、観測データに近似した結果ではあるが、まだチューニングが終了したものではない。古村氏は、「震源モデルと地殻モデルには多様性があり、新潟中越地震のチューニングには、まだ1年くらい必要」と説明する。

 新潟中越地震以外の地震にもこの手法を適用していけば、いずれ、日本全国の地殻モデルが作成できる。そのときには地震による長周期地震動の影響はかなり正確に把握できるようになるだろう。

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