取引先に対する新株発行、注意すべきポイントは?こんな時期だからこそ知っておきたい企業のファイナンス(2/2 ページ)

» 2006年01月25日 12時51分 公開
[第一法規]
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4.第三者割当と会社支配の維持

 取引先や友人に新株を引き受けてもらうことは、しばしば行われています。この場合、取引先や友人は友好的な株主で、会社の運営にはあまり口を出さない、という前提があります。したがって、ひとたび友好関係が崩れたときは、株主としてのさまざまな権利を主張され、オーナー経営者にとっては厄介な存在となります。

 会計帳簿の閲覧謄写権は総株主の議決権の3%以上の株式を有する株主に認められており、取引先が多数の株式を取得するときは当社の会計帳簿について閲覧謄写できる権限を取引先が持つことになります。また、総会における株主提案権も、6カ月前から引き続き総株主の議決権の1%または300株(300単元)以上の株式を有する株主に認められています。6カ月前から引き続き総株主の議決権の3%以上の株式を有する株主には株主総会招集請求権も認められています。

 しかも、定款変更など会社の重要事項を決議する場合の特別決議において、より強い支配力を確保し確実に決議を通すためには、総株主の議決権の3分の2を保有しておくことが必要です。

 以上を念頭において、新株の割り当てを行ってください。

5.株式譲渡制限

 株式は自由に譲渡でき、これにより、株主は投下資本をいつでも自由に回収できるのが原則です。しかし、同族会社などでは、株主の個性が問題となり、好ましくない者が株式を譲り受けて株主になっては困る会社もあります。好ましくない譲受人を排除するため、会社は定款をもって株式の譲渡につき、取締役会の承認を要する旨を定めることができます。

 取引先や友人に新株を引き受けてもらったとして、その株主が株式を見ず知らずの第三者に株式を譲渡した場合、会社経営が混乱する可能性があります。

 ついては取引先や友人に新株を引き受けてもらう前に、定款変更をして株式の譲渡につき、取締役会の承認を要する旨定めておくことを検討してください。株式の譲渡制限を定める定款変更は、総株主の利害にかかわる問題であるので、決議の要件が特に厳しいものとなっています。

ワンポイント:譲渡制限会社が発行する株式の総数に関する制限の廃止

 2001年度商法改正において新株発行に関する過剰な規制を緩和し、株式会社の資金調達の円滑化を図るため、新株発行規制などについて改正がなされました。

 株式譲渡制限のある会社においては、<1>会社設立に際して発行する株式総数が会社の発行する株式の総数の4分の1を下ることができないという制限(旧166条4項)、および<2>会社の発行する株式の総数を発行済株式総数の4倍を超えて増加できないという制限(旧347条)が廃止されました。

 これらの規制は、株主の有する持株比率が取締役会の決議による新株発行決議により低下する限度を定めたものですが、譲渡制限会社においては、株主に新株引受権が認められており、株主割当以外の方法により新株または新株予約権を発行するときは株主総会の特別決議が要求されるため、この持株比率の低下の限度についての規制を廃止しても株主の利益が害されることはないので、これらの規制を廃止したものです。

●参考法令など
商法280条の2(新株発行事項の決定)
商法280条の5の2(譲渡制限株式と株主の新株引受権)
商法293条の6(少数株主の会計帳簿閲覧謄写権)
商法232条の2(株主の提案権)
商法348(譲渡制限を定める定款変更)


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