現実的な理想主義GPLv3-Conferenceリポート1(3/5 ページ)

» 2006年01月30日 16時30分 公開
[八田真行,japan.linux.com]

RMS

定刻をやや過ぎて、RMSこと御大、リチャード・ストールマン氏のスピーチが始まった。彼の話はごく短いものであったが、彼がGPLv3に期待することは極めて明快に伝わってきた。すなわち、GPL2に見られた文言上の細かい問題点をつぶし、特にほかのライセンスとの互換性(compatibility)を高めたいということ、一方でソフトウェア特許やデジタル権利管理 (Digital Rights Management、DRM)はユーザーの自由を害するという点でまったく受け入れられるものではなく、こういったものと戦うための武器としてGPLv3を最大限利用したいということ、この二点である。反ソフトウェア特許、反DRMはストールマン氏の宿願であり、この点に関して妥協はない、ということは以前から明確ではあったが、それが再び強調されることとなった。言いたいことを言い終わると、ストールマン氏は法的文書としてのGNU GPLの実質的起草者、エベン・モグレン、コロンビア大学法学部教授にマイクを譲った。

 ちなみに、ストールマン氏は断固として自説を述べたものの口調は終始穏やかで、くつろいだ様子で茶目っ気のあるところを見せていた。例えば講演の途中会場で携帯電話を鳴らしてしまった人がいたのだが、「盗聴装置の電源は切ってくれたまえ、官憲もこのイベントには注目しているからね」などと言って場内の笑いを誘っていたものである。その割に目はあまり笑っていなかったが……話自体も欧州の状況やDMCA、TiVoの問題(これについてはZDNetの記事が参考になる)など具体例を交えた分かりやすいもので、広く一般の聴衆を意識していることが窺えた。ちなみに、ストールマン氏と話すときには言葉の選び方に気をつけなければならない。「Linux→GNU/Linux」はもはやジョークの域に達するほど有名となったが、ほかにもDRMのRは「Rights」ではなくあくまで「Restrictions」であり、ストールマン氏によればIP(Intellectual Property、知的財産)などというものは存在しないのである。

RMS 御大の雄姿。着ている服を覚えておくといい

Eben Moglen

 引き続き、エベン・モグレン教授の講演が始まった。モグレン氏は若いころIBMでプログラマーをしていたが、その後プロの法律家に転じたという変わり種。ストールマン氏が最も信頼する顧問の一人である。もちろんGPLv3のコンセプトやヴィジョンを決めているのはストールマン氏だが、具体的に法律文書として書き上げたのはモグレン氏らSFLCの法律家たちなのだ(法律的な細部をストールマン氏に聞いても「俺には分からんのでエベンに聞いてくれ」と言われてしまうくらい)。教授の講演は2時間近くにおよび、会議初日の、そして会議全体からみても実質的なハイライトを為すものとなった。なお、「Eben」はイーベンではなくエベンと発音する。

Eben Moglen エベン・モグレン、コロンビア大教授
RMS & Moglen おかしな二人

 教授の話は随所にユーモアを交え明快ではあったが、一方で大変長く極めて多岐に渡るものとなったので、語られた内容すべてをここでご紹介するのは筆者の手に余る。基本的には、FSFが公開したRationale(GPLv3の趣旨説明)の内容に沿って、GPLv3での変更点とその背後にあるアイデアを説明するというものだったので、Rationaleを熟読していただければだいたいのことは分かっていただけるはずだ。また当日の模様は全てビデオに収録されており、そのうち自由なライセンスの下で公開される予定なので、興味のある方はそちらも参考にしていただきたい。ここでは筆者なりにざっくりとした整理を試み、注目すべき点を幾つか指摘するにとどめる。また筆者は法律の専門家ではなく、英語もはなはだ怪しいので、教授の発言を勘違いしている可能性もある。注意していただきたい。

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