現実的な理想主義GPLv3-Conferenceリポート1(5/5 ページ)

» 2006年01月30日 16時30分 公開
[八田真行,japan.linux.com]
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GPLv3の策定プロセス

 午後もしばらくフロアからの質問が続いたが、次いでGPLv3策定に向けた具体的なプロセスに関して紹介があった。プロセス自体の説明についてはGPLv3 Process Definitionにまとめられているが、今回特異なのは、Wikiライクな編集システムを用いることで一般の人々からのコメントを広く集めるという形式を取っていることである。このシステムやメールなどで集められたコメントは、FLOSS界における利害関係者(開発者、企業、法律家など)を幅広く集めてAからEまで分類したディスカッション・コミッティーが集約し、ストールマン氏に答申するという仕組みになっている。集めた意見は今後最低2回は更新される予定のドラフトに反映され、さらに「Last Call」と呼ばれる最終ドラフトを発表した上で、正式なGPLv3が発表されるという手順だ。

策定プロセスの説明 FSF関係者によるGPLv3策定プロセスの説明

 ただ、筆者も疑問に思ったので直接質問したのだが、ディスカッション・コミッティーの権能はかなり弱い。基本的に答申に限られており、最終的な決定権は依然ストールマン氏に握られている(モグレン氏にすらない)。よって、調停不能な対立がストールマン氏とそれ以外のコミュニティーで生じた際には、結局最終的にはストールマン氏の意見が通るということになりそうである。拒否権がないのにまるで同意を与えたかのように思われてしまうのは、例えば企業からの参加者にとっては致命的な事態であろう。おそらく、特に反DRM条項をめぐって今後活発な綱引きが始まるのではないかと思うが、その過程でディスカッション・コミッティーの問題が表面化することもあるかもしれない。なお筆者はどうやらアクティヴィストを集めたコミッティーAに収容されることになりそうである。

その後

 17時ごろにようやく会議が終了した後も、会場のそこかしこで参加者による活発な議論が繰り広げられていた。モグレン氏も報道関係者への対応に忙しい。その後、筆者はDebian開発者のブランドン・ロビンソン氏(彼は現在のDebian Project Leaderでもある)やドン・アームストロング氏らと、MITのファカルティラウンジで夕食を取りつつ意見交換を行ったのだが、一致したのは、予想したほど極端なものではなかった、というある種の安堵感である。第一ドラフトの内容が公開されていなかったこともあって、非常に攻撃的なものになるのではないかと筆者などは恐れていたのだが、幾つかの点を除けば(ソフトウェア特許に対するスタンスすらも)ごく穏当なものとなっているのではないかと思われる。といっても、スタンスが穏当であるということが即ライセンスとしての完成度の高さを保証するわけでは当然なく、すでに幾つも法的または文言的問題が見つかっている(モグレン氏は会議二日目、「すでに3つの致命的バッファオーバーフローが見つかっています」とおどけて苦笑していた)。Debianに関して言えば、debian-legalメーリングリストですでに活発な議論が開始されている。Debian Projectとしてコメントを出すかどうかはまだ分からないが、いずれにせよ議論の結果は、ドラフトへのコメントという形で還元されることになるだろう。

 個人的にはやはりDRMがらみの条項に不安が残った。筆者もDRMには反対だが、そもそもコードの用途をライセンスで制約するのは筋が悪いと思う。また、DRMを極端な形で排除しても、そういった企業はおそらくプロプライエタリなソリューションに逃げるだけで、決して自由なソフトウェアを支持するようにはならないだろう。むしろ、さまざまな制約に直面しつつも、企業の中での自由なソフトウェアの利用促進に奮闘している人々がいよいよ動きにくくなってしまうのではないだろうか。このあたりも含めて、今後の議論の動向を注視しつつ意見を出して行きたいと考えている。モグレン氏も、DRMがらみの文面については今後再検討が加えられる可能性が高いと述べていた。

 次回は二日目の様子をご報告することとしよう。

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