自由を我らにGPLv3 Conferenceリポート2(4/4 ページ)

» 2006年02月02日 14時15分 公開
[八田真行,japan.linux.com]
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ライセンスの国際問題

 二日間に及ぶ会議の最後を飾ったのは国際問題に関するパネルセッションだった。アルゼンチンからの出席者、イタリアからの出席者、ブラジルからの出席者に加えて日本のg新部裕さんがパネリストとして登壇。これはどうも午後になってから急に決まったことのようである。正直に言って会議の運営に関してFSFの段取りはどうもばたついていて良くないのだが、まあ仕方がない。

International Panel International Panelの顔ぶれ。左からg新部氏(日本)、ブラジル代表、イタリア代表、アルゼンチン代表

 正直に白状すると、先ほどのInternational Committeeでのやや堂々めぐり気味な議論で疲労困憊していたこともあって、このセッションの内容はあまり覚えていない。本稿を書くに当たって、個人的に録音したものを聞き直してみたのだが、各国の著作権法事情や、各国政府の自由なソフトウェアへの関与の仕方など若干興味深い議論もあったものの、すでにそれまでのセッションで出尽くした話題が繰り返されることが多かったようである。その中で、g新部裕さんが組み込み分野における自由なソフトウェアの利用のありかたや、アジアにおける自由なソフトウェアの受容に言及していたのが注目された。そもそもアジアでは著作権意識が弱いのではないか、という指摘もあったが、実際その通りかもしれない。いずれにせよ、時間が押していたということもあってセッション自体やや短かめに切り上げられたようだ。

むすび

 最後に、東西奔走して疲労困憊といった体のモグレン教授が声を枯らしつつ挨拶をし、2日間に渡るカンファレンスもようやく幕を下ろした。挨拶の中で、「GPLv3でわたしたちにできることは、人々が権利を行使する手助けをすることだけだ」と語っていたのが印象に残る。日本でも、いまだにGPLはGNUやFSFのために存在すると思っている人がいる。それは違う。GPLは、皆さんの権利、皆さんの自由を守るために存在しているのである。そこを分かっていただけると、筆者としてはとてもうれしい。

 初日同様、カンファレンス終了後も会場のそこかしこで活発に議論が展開されており、なかなか話は尽きない。この日の別のセッションで、モグレン教授が苦笑交じりにこう言っていた。「ソフトウェアライセンスについてこういう場でこれだけの人数が静かに議論するなんて、今までならとても信じられないようなことだね」。筆者もまったくもって同感である。

総括

 一言で言えば、今回のGPLv3 Conferenceは大成功だったと思う。日本ではどうか知らないが、海外のメディアではGPLv3改訂やこのカンファレンスに関する話題が大きく報道された。自由なソフトウェアのパブリシティを得るというのもこの会議の重要な目標の一つだったので、それは十分に達成されたと言えよう。そもそも、自由なソフトウェアの関係者がどこかで一堂に会すということ自体今まで20年余の歴史を誇る自由なソフトウェアの歩みで絶えてなかったことである。メールなどではそれなりにやり取りがあっても、実際に会ってみるとやはり相互理解のレベルは格段に上がるものだ。それだけでも意義があったと個人的には思われてならないし、実際、会議を契機としてメーリングリストなどではより突っ込んだ議論が交わされるようになった。コメントシステムも、たいして問題が生じることもなくすでに広く利用されているようだ。

 筆者の正直な気持ちを言えば、現時点でのGPLv3ドラフトにはあまり関心がない。評価も控えたい。方向性がはっきりしていて、ドラフトの段階にしては悪くないできだとは思うが、問題も多いとだけ述べておこう。

 そういったことよりも、GPLv3改訂のプロセスがきちんと明文化され、しかもそれがちゃんと機能するということの方がずっと重要だと思う。これが保証されてはじめて、議論によって磨かれた良いものが出てくる「可能性」が高まると言えるのだ。筆者の見立てでは、今回のGPLv3改訂プロセスはなかなかいい線行っている。プロセスへの信頼があるからこそ、ドラフトに問題があっても今後議論を尽くして一つずつ問題をつぶしていけば良い、と自信を持って言い切ることができるのである。プロセスへの信頼は、単純な成果物への信頼よりも勝ると筆者は思うのだ。この意味で、まだドラフトに過ぎないものを見て早々にGPLv3に移行しないと言ってしまったリーナス氏は先走りすぎたのではないかと個人的には思う。とはいえlkmlでの激しい議論を見るに、おそらく今後ポリシーが変わることもあろう。

 個人的には、今後議論を通じGNU GPLを真の意味で「General Public License」にすることを狙って行きたい。GPLv3を、大多数の人にとって使い勝手が良く、かつきちんと法的に検討されたライセンスへと鍛えていくことができれば、わざわざ自分で一からライセンスを書かずともGPLv3で十分ということになり(SunがGPLv3採用を検討するという動きは非常に心強い)、現在一部で問題視されているようなオープンソースライセンスの氾濫もおそらくおのずから沈静化するだろう。最終的には、GNU GPLとBSDL辺りにライセンスが集約されてくれば良いと筆者は考えている。

 読者の皆さんにお願いしたいことがある。それは、FLOSSに少しでも関心があるのなら、ぜひこのGPLv3改訂プロセスになんらかの形で参加して頂きたいということだ。皆さんが日々使うソフトウェアのライセンスを、皆さんの手で変えていき、皆さんの自由をより確かなものにしていける可能性がある、というのは、非常に稀有な機会ではないだろうか。道は広く開かれた。後は皆さん次第である。

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