経営者とベンダーの間に暗闘がある?コンタクトセンターが企業の顔になる(1/2 ページ)

シリーズで続けてきたエッセイの最後に当たり、これまでに書いたことを含めて、「CCの未来」について考えてみたい。

» 2006年02月24日 08時00分 公開
[土屋晴仁,ITmedia]

 オンラインムック「コンタクトセンターが企業の顔になる」1回目2回目3回目4回目5回目に続き、コンタクトセンターの在り方を探る。

土屋晴仁(編集者/ジャーナリスト)

 最近つくづく「現代の経営者は大変だ」と思う。このシリーズでも書いたが、事業環境が複雑化、高度化しており、企業として商品やサービスを単純に提供するだけではビジネスとして通用しなくなってきている。

分かっている、でもカネがないんだ!

 また、取引の電子化が進み、サービスは24時間365日体制になり、製造物責任、廃棄物の回収責任、個人情報保護の法律があるなど、外部環境にも無視できない事柄がたくさんある。これらを含めて、CSR(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ:企業の社会的責任)に注目が集まり、知的財産や株式買収、会計監査に至るまで、これまでなかったほどさまざまなことに注意を払わなくてはならないご時世である。CCの設置や運営も、こうしたビジネスの高度化への対応策の1つと言えよう。

 仮に100円の商品があるとしよう。その商品を作ったり運んだり、売ったりする経費が60円だとすると、残りの40円が粗利益に当たる。だが、ビジネスの高度化に対応するために、残った40円からさらにさまざまな投資をしなくてはならず、その額は年々増えている。CCに対する投資も、ここから捻出するものである。

 それも、インフラをIP化し、マルチチャンネル化し、音声入力やテキストマイニングなどの機能を導入してシステム武装するとなれば、導入コストの金額はさらに跳ね上がる。そのため、状況を深く理解して「元を取る」覚悟で取り組まなければ、導入が成功したことを認めてもらえない。それでなくても、社内業務を支えるITシステム投資がかさんでしまうのだから、神経質になって当然だ。

 「顧客起点でバリューチェーンを作るべきことも、CCを充実させなくてはいけないことも分かっている。だけど、カネがないんだ」

 これが経営者の論理(心理?)だろう。でも、そこで止まってしまうようでは経営者は務まらない。

ベストプラクティスを作り出すしかない

 この分厚い壁を崩そうと、インフラやシステムを売り込んだり、オペレーター教育をビジネスとして展開したりする企業、運営や管理を引き受けるアウトソーサーなどの「CC業界の人々」が試行錯誤している。このシリーズで頻繁に顔を出しては解説を加えてくれた「業界くん」も、そうしたCC向けシステムベンダーの営業担当者である。

 業界くんはこう漏らす。

 「僕らにとって歯がゆいのは、経営者や決定権限を持った人に直接会うことがなかなかできないことだ。多くの場合、システム部門とかマーケティング部門の担当者が窓口になっていて、彼らは経営トップの言葉を増幅して“カネがない、安くて元が取れる話なら聞く”という態度を取る。まあ、当然ではあるけれど」

 さらに続ける。

 「こちらはひたすら、“コンタクトセンターを整備、充実させれば十分元が取れる”とアピールするしかない。本音では“ほかのところでムダな投資をしていないのか?”とか、“優先順位が分かっていない”と言いたいけれど、それは飲み込むしかない。システム屋が顧客の経営に口を出すのはせんえつだからね」

 なかなか殊勝なことを言い出した業界くんの話は、次第に悲壮さを帯びてきた。

 「壁を壊す秘策としては“ベストプラクティス”を作り出すしかないと思うよ。今まで年間100人、経費1億円で運営してきたCCがあるとしたら、これをバリバリのシステム武装で効率化し、30人、3000万で運営し、顧客満足度(CS)を劇的に改善して、なおかつ、マーケティング上の成果も出す。つまり元が取れたというような実例を、これでもかと見せつけるしかない。でも、それには、こちらもかなり身銭を切って取り組まなきゃならない。リスクは大きい。それができないのがツライよ」

 ああ、愚痴か、放っておこう。

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