SAPとMicrosoftの今――協調と競争のリスクを追う(5/5 ページ)

» 2006年03月15日 07時00分 公開
[Chris Alliegro,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版
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中堅企業市場で激突

 中小企業向けのビジネスアプリケーション市場におけるMicrosoftとSAPの競合は激しさを増している。SAPは中堅企業市場向けに2種類のERP製品を販売しており、その1つは、年商10億ドル未満の企業をターゲットとしたSAP All-In-Oneだ。Microsoft Business Solutions(MBS)部門のDynamics AXとDynamics GP(それぞれ既存のAxapta、Great Plainsを名称変更したもの)もほぼ同じ企業層を狙っている。もう1つは従業員数250人未満の企業向けのSAP Business Oneで、この製品はDynamics Navisionやスタンダード版のDynamics GPと競合している。さらに、SAPが2006年2月にリリースしたCRMホスティングソリューションは、MicrosoftのDynamics CRM製品と競合することになる。

 現在、こうした中堅企業市場向けのERPアプリケーションは、MicrosoftとSAPのどちらにとっても大きな収入源ではない。だが、この分野に両社がかける期待は大きい。Microsoftは中堅企業市場向け事業を、WindowsとOfficeの販売の伸び悩みを補う手段の1つと位置付けており、SAPは、大企業市場におけるERP製品の販売機会の減少をこうした事業で相殺したい考えだ。

今後を占う:可能性とリスク

 MicrosoftとSAPは協業の新たな展開に関する発表を2006年に入ってまだ行っていないが、幾つかの動きが考えられる。

 Mendocinoのバージョン1の成功次第では、将来のバージョンは、SAPシステムへのアクセス機能がより充実し、例えばCRMのデータや機能などへのアクセスが可能になるとみられる。また、Outlook以外のOfficeアプリケーションと連携するようになる可能性もある。例えば、ユーザーはExcelでSAPデータのアドホック分析を行えるようになるかもしれない。一方、SAPとMicrosoftのサーバ製品は、さらに連携を高める余地がある。例えば、SAPポータルにExchangeのアイテム(電子メール、仕事、予定表など)を表示することはできるが、ユーザーがこうしたアイテムに加えることができる変更(例えば、仕事の期日の変更など)は限られている。MicrosoftのOutlook Web Access(OWA)クライアントを使う場合と同等な使い勝手をSAPポータルで提供するには、カスタムSAPポータルコンポーネントを開発する必要がある。

 Webサービス標準に関する両社の共同の取り組みも、メリットをもたらしそうだ。例えば、MicrosoftとSAPは、将来的にはBizTalk ServerとNetWeaver XI間で、Webサービス標準をベースにしたメッセージングが可能になるとしている。そうなれば、BizTalk Adapter for SAPのようなツールは不要になりそうだ。

 しかし、このように両社には引き続き協力を進める機会があるものの、両社とその顧客、パートナーにとって、これからの展開にはリスクもある。例えば、OfficeからSAPシステムのデータや機能にアクセスする方法がさらに進化すれば、SAPの中堅企業市場向けERP製品はMicrosoftのMBS部門の製品よりも競争力が高くなる。また、Microsoftが大企業向けERP製品の市場でSAPに取って代わることは(少なくとも近い将来は)ないだろうが、MicrosoftのBIツールや開発製品は、SAPがNetWeaverなどの付加的なソフトを販売する機会を奪ってしまう可能性がある。例えば、SQL Serverをプラットフォームとして使用するSAPの顧客は、NetWeaverのBIコンポーネントを追加で購入する代わりに、SQL ServerにビルトインされたBI機能を利用することを選ぶかもしれない。同様に、MicrosoftのWindows VistaとWindows Longhorn Serverに搭載されるWindows Workflow Foundationは、開発者がNetWeaverで提供されるような外部のサービスやツールを用いることなく、ワークフローの自動化機能をWindowsアプリケーションに直接組み込むことを可能にする。

 企業のIT担当者やMicrosoftとSAPのパートナーは、所定のアプリケーションにどちらの技術が適しているかの判断基準となるポリシーやアーキテクチャ標準を定義することなどにより、両社の競合技術のこうした適切性に関する評価の枠組みを整備すべきだ。開発者のスキルや、ITインフラ、ビジネス要求(例えば、SAPデータのアプリケーションでの重要度など)などのファクターが、そうした評価に影響する。例えば、異種混在のIT環境を運用していて開発スタッフがJava派である場合には、SPSよりもNetWeaverの方が、SAPシステムの複数の情報リポジトリの統合されたビューを提供するポータルアプリケーションの構築ツールとして適しているかもしれない。

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