市民と行政の「共生的自治」を市民電子コミュニティーで――神奈川県藤沢市激変! 地方自治体の現実(2/2 ページ)

» 2006年04月01日 00時37分 公開
[中野利佳,ITmedia]
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2種類の会議室が市民の要望をくみ上げる

 「藤沢市の電子会議室の事例は長期間運用され、いわゆる『枯れた』事例のように思われがちだが、まだまだ理想型だとは思っていない」と齋藤氏。市内にはSFCという国内屈指の情報ネットワーク研究施設が存在するため、その智恵を授かりながらの実験計画を遂行できたまれな事例になるのではという質問に、「それだけではこの会議室が長きにわたって運用され続けることはなかった」と齋藤氏は断言する。

 「ともすると自治体のサイトでは行政側からの一方的な投げかけのみ、官から民という上下構造になりやすい。しかし、それでは意見を幾ら出せと言われても出てくるものではない。このため、市民電子会議室では市民エリア会議室と市役所エリア会議室という2種類の会議室を設け、まちづくり要望の意見が活発に出るようにした」(齋藤氏)

 市役所エリア会議室とは、一般的な行政と市民の意見交換の場という位置づけで、ここでは本名での発言が原則となり、投稿された発言内容は市役所内にメールで配信されるようになっている。

 一方、市民エリア会議室は、市民自らが会議室を開設し意見交換を行うもので、ネットワーク上のコミュニティー形成を主な目的とする。市内在住、在勤、在学者であれば誰でも会議室を開くことができ、参加も実名ではなくニックネームで可能となっている。

 市民エリア会議室では、ざっくばらんな世間話から真剣な討論まで玉石混交な意見が存在するが、この会議室内で多くの意見交換によって市政への提言にまで昇華した意見は市役所エリア会議室にも上げられ、結果、市役所側で市民の要望がかなりの速さで伝えられるという、いわば車の両輪のような体制が構築されている。

 現在もSFC金子研究室側に「世話人」という形で会議室管理の業務委託を行っているものの、実際に運用管理を行っているのは、公募された中から選考された市民による「運営委員会」であり、この存在が非常に大きいという。この運営委員会は現在第5期を迎えており、11人の市民が会議室の運営を行っている。

 「運営委員会の方々には会議室におけるモデレータ的役割を果たしてもらうとともに、市役所側への意見提出の検討、市長も参加する懇談会への参加とさまざまな場で活躍してもらっている。運営委員会の努力なしではこの会議室を利用した市民提案システムはなし得なかったと言っても過言ではない」(齋藤氏)

電子市民会議室内の一会議室の様子。市民エリア会議室では、ニックネームによる活発なやりとりが行われている

「荒れる」状態を防ぐ仲介者の存在

 長きにわたる会議室での意見交換で、時にはコミュニケーションエラーが起こり、いわば「荒れる」状態になりそうなことも少なくなかったという。このような場合に行政側が意見を返しても、火に油をそそぐ結果となるのは目に見えている。

 「市民と行政の対立構造になってしまうことはどうしても避けたいと思いました。このため、という市民でありながら行政の立場も理解できる運営委員会という存在、いわば『仲介者』に何度も助けられている」(齋藤氏)

 この運営委員会の役割や立場も、実験プロジェクト当初から想定し、細かい改訂はあるものの根底の理念は変わらないという。これはあくまで市民と行政が対等の立場で事業や政策を行う「協働」というもので、この理念を基に「共生的自治」をシステム化している。

 インターネット上のコミュニティーについては、現実の交流がなくても成立してしまうことはたびたび指摘されてきた。しかし、藤沢市ではオンライン上のコミュニティーと現実の世界を結びつける努力も行っている。いわゆるオフ会の存在だ。

 オフ会といっても、単なる飲み会ではなく、会議室の議論の延長にあるものとして定期的に企画されている。こうしたオフラインでの活動がオンラインの活動を刺激し、より強いコミュニティーの形成につながることが期待されている。

 今後の会議室のシステム改善の見通しについて齋藤氏は、「現在の会議室は、1997年から細かいソフトウェアのバージョンアップはあったものの、基本的な機能は継承し続けている。現在、GISやソーシャルネットワークサービス(SNS)などが現在のシステム上で動作させることができるかを検討しているところだが、その場合も『共生的自治』を継承しながらのシステム改善となることは間違いない」と力強く述べた。

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