アウトソーサーから見たFOSSMagi's View(1/2 ページ)

アウトソーシングとフリー・オープンソース・ソフトウェア(FOSS)は相反する存在のように思えるかもしれないが、実際のところ、アウトソーシングにとって、FOSSは、好機であり自身を正当化してくれる存在なのかもしれない。

» 2006年04月04日 14時04分 公開
[Bruce-Byfield,IT Manager's Journal]
SourceForge.JP Magazine

 一見したところでは、アウトソーシングとフリー・オープンソース・ソフトウェア(FOSS)は相反する存在のように思える。FOSS支持者の目には、FOSSはコラボレーションを促進しビジネスにうるおいを与えるものだが、アウトソーシングは従来型ビジネスの典型であり、地元から仕事を奪い世界中の発展途上地域を搾取するものに映る。しかし、フェジェス氏の見方は違う。中東欧圏で急成長をしているアウトソーサー(アウトソーシングサービスを提供する企業)EPAMのCTOであるバラージュ・フェジェス氏は、FOSSコミュニティーがEPAMのような企業の代わりになることもあるとは認めるが、FOSS人気の高まりはアウトソーサーにとっても新たな好機であり、アウトソーシングを受け入れ易くする効果があると言う。

 EPAMの創業は1993年。拠点をニュージャージー州プリンストンとブダペストに置き、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、ハンガリーを中心にビジネスを展開、フェジェス氏によれば、中東欧圏における大手アウトソーサーを目指しているという。アウトソーシング業界の評価に従うなら、EPAMは目標実現への道を着実に歩んでいるようだ。アウトソーサー向けに雑誌を出版しWebサイトを運営するGlobal ServicesによるランキングGlobal Services 100で、EPAMは、Top 5 To Watch in Central and Eastern Europe部門で2005年に引き続き2006年も第1位、またTop 10 Speciality Application Development Leaders部門では2006年に第9位にランクされている。同社のサービスは、製品設計・試験・部品の設計と統合・文書化・現地化など、ソフトウェア開発のすべての段階にわたっている。

 非開示契約を理由にフェジェス氏は同社のクライアント名を明かさないが、顧客は北米企業の約3分の2、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、英国などといった西欧諸国の企業の約3分の1におよび、ドイツと英国ではアウトソーシングが大きく増加しているという。

 フェジェス氏は、中東欧圏のアウトソーシングビジネスはアジアに比べてまだ小さく、大規模プロジェクトならインドにアウトソーシングした方が安価になることが多いとさえ言う。しかし、EUのクライアントにとって中東欧圏は近く(業界用語で言えば「ニアソーシング」が可能)、しかもEPAMが事業を展開している地域には「巨大な資源が手つかずのまま眠っている」と言う。ロシアは人口ではインドの5分の1しかないが科学分野とIT分野の大学卒業生は毎年20万人――インドと同程度――いると具体的な数字を挙げた。将来、この地域のアウトソーサーは合従連衡に向かい、単独でアジアのアウトソーシング企業に匹敵する大企業が1社や2社は生まれるだろうとフェジェス氏は見ている。

FOSSがアウトソーシングに与える影響

 フェジェス氏によると、FOSS人気の増大はアウトソーシング業界に功罪さまざまな影響を与えるという。マイナス面では、FOSSがアウトソーサーを駆逐する恐れがある。つまり、必要なソフトウェアコンポーネントが無償で手に入るならアウトソーサーに支援を求める必要があるだろうかというわけだ。この単純な事実によって「アウトソーサーに対する低価格化・短納期化の圧力が高まっている」。その結果、フェジェス氏は明言しないが、アウトソーサーで働く従業員の賃金が下がるだろう。これは、反対論で主張される主要な問題点の一つである。

 一方、プラス面もある。まず、代替となるFOSSがあっても、簡単に既存のソフトウェアに組み込んだり具体的な場面で利用したりできるとは限らないとフェジェス氏は指摘する。FOSSの認知が広がっても、多くの企業は扱いかねている。そのため、FOSSの採用に前向きな企業でもアウトソーサーに支援を求めることになるというのである。

 アウトソーシングする代わりに自社ソフトウェアのFOSSコミュニティーを作ってみようとしている企業もあるが、この場合も社外の専門家が必要だろう。企業にとって「ボランティアが参加すれば、プロジェクト全体の管理が難しくなるものだ」

 また、フリーライセンスの意味がよく分からないクライアントの中には、納品されたソリューションにFOSSがまったく含まれていないよう保証を求めるところもあるだろう。特に、GNU General Public Licenseなどのライセンスによって自社の知的財産を要求されるまま無償で提供する羽目にならないように保証を求めることはよくある。また、FOSSに対する警戒感はなくても、フリーライセンス同士やフリーライセンスとプロプライエタリなライセンスが干渉して矛盾した条件が発生することを心配するころもあるだろう。

 いずれの場合も、要求された事項を保証するのは「オープンソースソフトウェアが広く商用のプラットフォームに、さらには業界標準のプラットフォームにさえ使われているため、相当に慎重な扱いを要する場合がある」とフェジェス氏は言う。どちらのクライアントも満足させるため、EPAMでは「かなり複雑なリリースおよび精査手続きを採用してライセンスへの順守を確保」している。設計段階でライセンスを分析してクライアントのプロプライエタリなライセンスと比較し、開発の全過程で繰り返し順守を確認しているという。

 いずれにしても、EPAMのような企業がビジネスを続けようと思うならFOSSを理解する必要があり、その必要性は高まる一方である。フェジェス氏は「特定のオープンソースプロジェクトを知っているかどうかでプロジェクトの成否が決まることもある」と言う。こうした状況下では、ロシアやウクライナなどの国にいるFOSSプログラマーがアウトソーサーで働く機会が増えることになるだろう。

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