提言1:なぜ組織はITに投資するのかを問えマネジメントイニシアチブ時代に向けて――7つの提言

マネジメントイニシアチブ時代に向けて――今回から7つの提言について順次、解説していく。今回は「提言1」として、「なぜ組織はITに投資するのかを問え」がテーマ。

» 2006年06月07日 07時00分 公開
[増田克善+アイティセレクト編集部,ITmedia]

IT投資の対象を4つの領域で考える

 経営者のIT活用に対する意識は、4、5年の間に大きく変化してきている。IT投資を行うための主な目的として、かつては業務の効率化、情報活用化支援を挙げる経営者が多かった。それが、業務プロセスの標準化支援を経て、情報・プロセスの統合支援、経営管理機能の強化支援へと変遷しつつある。ところが意識は変わりつつあるものの、実際の具体的な投資となると、依然として既存システムの運用にIT投資の大方を費やされている。ITの戦略的活用が叫ばれながらも、IT投資の最適化は実現できていないのではなかろうか。それはIT投資が適正かどうか検証する視点を欠いてしまっていることが大きな理由である。そこで、組織はなぜITに投資するのか、あらためて考え直す必要がある。

 IT投資を行う目的として前述したような意識変化が見られるが、企業のIT投資は、@インフラ投資、A業務系投資、B情報系投資、C戦略的投資の4つの対象分野に分けることができる。

 インフラ投資は、全社共通の業務システム基盤や情報共有基盤などITサービスの基幹部分の維持・整備に向けられるもの。業務系投資は、組織の業務処理のIT化であり、システムによって業務を効率化するとともに、オペレーションのコスト削減効果を生み出すのが目的。また、情報系投資は、知識データベース、BI(ビジネス・インテリジェンス)システムなどによって社員の情報活用力を高め、業務品質の向上、意思決定のスピード化、業務管理能力を高めるためのシステム投資だ。そして、ITを活用して競争力強化や新規事業の立ち上げなどに不可欠で、ビジネスモデルや収益モデルなどを抜本的に変えてしまうのが戦略的投資である。経営的判断から実施される戦略的投資だが、業務系投資や情報系投資と比較すると明確な効果が説明しにくい投資といえる。

IT投資の配分を最適化することが不可欠

 企業がIT投資を考える場合、その時々の経営の要請、経営環境に対してIT投資の重点分野を動的に変えていくことが不可欠である。経営資源の投下で選択と集中が重要であるのと同様に、限られた資源をどのように選択と集中を行うかが重要である。

 この視点に立って、あなたの会社はこれまでにIT投資配分を4つの領域で考えてきただろうか。レガシーシステムの維持に毎年多額のコストを費やし、ツギハギだらけになった分散稼働システムによって、共通インフラの維持管理コストが年々増加してユーザー部門が負担できないようなオーバーヘッドコストになっていないだろうか。あるいは、業務系・情報系システムで、業務革新効果を検証しないまま、維持管理コストが継続的に垂れ流されているのではないか。「これからは戦略的IT投資が重要だ」という言葉に乗せられ、他社に遅れまいという危機感から、ビジネスモデルを十分に評価せずにリスクの大きい戦略型IT投資を実施し、果実を得られずにいるケースはないか。

 多くの企業では、IT投資の多くがそれぞれの領域で既得権化・固定化してしまい、経営的判断による柔軟な投資配分がなされていない場合が多いと思われる。

IT投資の見直しは経営そのものの見直し

 特定業務の効率化を目的とするような個別のIT投資案件を評価しているだけでは、組織としてITをいかに活用するかという戦略や、その戦略に基づいたIT投資全体を評価することはできない。企業全体の戦略に基づいたIT投資管理体系の構築が求められている。特に日本の場合、経営層の意思決定プロセスや質の高度化にITの活用が遅れている。これは本来、ビジネスとITのガバナンスに対しての情報化投資と活用自身が未成熟であると言える。

 企業経営はITと表裏一体の関係にあるというのが、今や定説になっている。実際に、ほとんどの企業が何らかの形でITを導入しており、もはやIT活用なしに企業活動を考えることはできないといっても過言ではない。したがって、IT投資を見直す作業は、経営そのものを見直す作業だと考えることもできる。IT投資の問題は、企業経営を支える戦略や組織、人材に関わる問題でもある。ITシステム導入の目的を明らかにし、そのIT戦略と経営戦略の整合性、IT投資の効果を評価し、常にフィードバックしながらめざす方向へとコントロールする組織的能力が求められる。それが、ITガバナンスにほかならない。

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