経営戦略なきところにIT戦略なし1あなたの会社は大丈夫か?企業にはびこる「間違いだらけのIT経営」:第4回(2/2 ページ)

» 2006年06月27日 07時00分 公開
[増岡直二郎,アイティセレクト]
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ITは単なる道具という大きな誤解

 では、何故ITは戦略的に取り組まれないケースが多いのか。

 一つはそもそも経営が戦略的に取り組まれていないからと言えよう。もう一つはITが単なるデータ処理の道具としてしか見られていないため、あるいはITの無理解からだろう。

 経営が戦略的でないとき何故ITも戦略的でないか。それは、「ITに戦略的に取り組む」という意味を整理してみるとわかってくる。IT戦略とは、ITと言う手段を使って経営戦略を支えるインフラを提供し、かつ経営改革のソリューションを提供する。

 そのためにはIT部門が、経営戦略実現のために部門間の壁を打ち破る要となって、その仕組みづくりを積極的に行い、全体最適化を狙うということだろう。経営戦略なきところに、IT戦略はない。

 経営が戦略的でない例は、筆者の実務やコンサルティング経験などを通じて企業の中で見廻すと枚挙に暇がない。例えば中期事業計画や予算編成、新製品開発計画などを策定するとき、トップ(部門長・事業所長なども含む)はどうするか。部下の各部門長に自部門の方針を提出させて、それらを集約してトップ方針とする。あるいは部下を集めて議論させて、そこからめぼしい意見を拾い集めて方針とする。事前にトップ自身の考えを示すこともせず、いわゆる「丸投げ」という誠に情けないやり方である。

トップは目標値に対する方法論を必ず示せ

 その言い訳はいくらでもある。曰く、トップの経験外の分野は仕方がない、社内コンセンサスを得るにはむしろ良い方法だなど、言い訳はできる。さらにトップは収益率何%達成、売上高何%アップ、あるいは顧客優先などという方針を立派に示しているという意見も聞こえそうだが、その程度の目標値は誰でも言える。問題は目標値達成のための方法論に対する考え方を方針としてどう示すかだ。しかも本当に優秀なトップなら、未経験分野についても洞察力があり、別途関係者と徹底議論をして知識と知恵を身につけようというものだ。

 部門間の壁や派閥が災いして、戦略からほど遠い例も多く見られる。役員同士の確執は日常茶飯事である。

 例えば社運を左右する新製品開発で全社から人材を集める必要がある場合、人材供出の協力を代案も出さず最後まで一切拒否し続ける部門長がいたり、その狭間で決断を下すことから逃避する役員やトップがいたりすることもある。

 老害も経営戦略を妨げる。何を勘違いしているのか、前社長である会長や相談役が、CEOである社長を差し置いて、社内の公の場で社長を諌めたり、ラインに直接しかも頻繁に指示を出したりすることは、決して珍しくない。あちこちの社内で隠微に横行している。

 このように部門発想に固執したり、老害に侵食されたりするところに戦略はあり得ない。加えるに、戦略の欠如はトップだけの問題ではなく、そこに仕える部下にとっても悲劇だ。

 IT戦略はまず経営戦略が確固として策定され、その整合性のもとに組まれるべきである。

例えば詳述は割愛するが、日本郵船が海運業から総合物流業への転換という経営戦略に合わせてIT戦略を策定して成功した。メリーチョコレートカムパニーは仮説検証型経営を経営戦略として、プレコンピュータ時代からガリ版刷りの集計表に正の字を手書きで記入する経営を積み重ね、それをコンピュータ化するという戦略に成功して増収増益を続けている。

 次回は、ITが戦略的に取り組まれないもう一つの要因と、しからばどうするかと言うことについて考えよう。

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