垂直磁気記録方式(すいちょくじききろくほうしき)テクノロジとトレンドを理解するための今回のキーワード:(1/3 ページ)

HDD大容量化の切り札として注目を集める「垂直磁気記録方式」。これまで、モバイル向けの小型ドライブで採用が進められていたが、今年に入ってエンタープライズ向けドライブでも対応製品が登場した。この垂直磁気記録方式とは、どのような技術なのだろうか。

» 2006年08月07日 23時00分 公開
[小林哲雄,ITmedia]

磁気記録の仕組み

 まず、磁気による記録の仕組みについて概説しよう。

 現在主流の記録方式は水平磁気記録方式(面内磁気記録や長手記録ともいう)だ。これは図1のような記録を行うもので、他の磁気記録(カセットテープやビデオテープを含む)と共通であり、長年使われてきた実績がある。

 磁気記録では書き込みに磁気ヘッドを使う。水平磁気記録方式で利用する磁気ヘッドは透磁性のよい物質をC字型にしたものにコイルを巻いたものだ。このコイルに電流を流すとフレミングの左手の法則に従い、磁気ヘッドのCの字に沿って磁界ループが発生する。

 Cの字のギャップ部分に強磁性体(記録媒体)を近づけておくと強磁性体の表面に磁界ループが構成され、磁界が磁性体の表面を透過し、磁界がある程度強力ならば磁性体を磁化する。コイルの電流を止めても磁性体は磁化したままとなり、これで磁気記録が行われる、というわけだ。

 HDDでは、電流の向きを変化させることによって磁界の向きが変わり、高速回転しているディスクの上を磁気ヘッドが滑りながら磁界を変化することでディスク上に微小な磁石を多数並べた記録を作る。現実にはHDDの記録ヘッドはコイルが巻いてあるわけではなく、小型化のため薄膜で構築された回路となっている。

 水平磁気記録方式の場合、記録ヘッドのギャップに発生する磁界は記録面と平行になっている。このため、記録されるデータとなる磁石も記録面と平行になる。イメージとしては図1の下のように棒磁石が横に並べられることになる。水平磁気記録方式と言う名称はここから取られている。

 

どうすれば記憶容量を増やせるか?

 HDDの大容量化は、多くのシステム管理者の望みだろう。記憶容量を増加させるための方法は、大きく分けて2つある。

 例を挙げて考えてみよう。1冊のノートに書ける文字数を増やすためにはどうすればよいだろうか。

 解答の1つは「大きなノート」を使うことだ。HDDならば記録円盤(プラッタ)の枚数を増やせばその分容量が増す。またプラッタのサイズを大きくしても容量は増すだろう。

 しかし、枚数を増やす場合、プラッタだけでなく磁気ヘッドも必要となり、コストが増す。また、プラッタが多くなるとそれだけ空気抵抗や質量の増大により回転モーターの負荷も大きくなり、騒音増や消費電力増に結びつく。プラッタを大きくすると高回転でのモーターパワーの増大の問題が出るのと、標準サイズと異なる製品になるため、市場で受け入れられない可能性が高い。

 容量を増やすもう1つの方法は「文字を小さく書く」ことだ。HDDならば、1bitあたりの記録面積を小さくすることになる。HDDは50年間、この道を歩み続けてきた。それでは、具体的にどのようにして記録面積を小さくしていったのだろうか。

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