垂直磁気記録方式(すいちょくじききろくほうしき)テクノロジとトレンドを理解するための今回のキーワード:(2/3 ページ)

» 2006年08月07日 23時00分 公開
[小林哲雄,ITmedia]

記録面積を小さくするために

 世界初のHDDであるIBMのRAMACは容量が5MBで24インチ(約61cm)のプラッタを50枚使用しているが、現在のHDDはエンタープライズ用途でも3.5インチのものが最大で、1台のプラッタ枚数も、多いメーカーで5枚となっている。だが、1台あたりの容量は現在最も大容量のもので750GBとなっており、50年で15万倍の容量を実現した。これは記録面積が小さくなった証拠だ。

 記録面積を小さくするために高い保磁力を持つ磁性体を使うなど、材料面でも改良がなされた。また、以前は読み出しと記録で同じヘッドを使用していたが、記録面積が小さくなると磁気が弱くなり読み出しができなくなるため、より感度の高い磁気抵抗効果を使用したMRヘッドや、巨大磁気抵抗効果を使用したGMRヘッド、トンネル磁気抵抗効果を使用したTMRヘッドへと進化している。

 さらに、読み出した信号が前後の信号に干渉を受け、明確に0/1を判断できなくなった場合の策も講じられた。PRML(Partial Response Maximum Likelihood)という手法を使い、相関関係から最も確実そうな」ビット列を推測するのである。

 

 だが、ここで大きな問題が発生する。記録面積を小さくしすぎると、記録しているデータそのものが消えるという物理法則から逃れにくくなってしまうのだ。

 

熱で記録が消滅する?

 水平磁気記録方式は最初に書いたように棒磁石を並べたような記録となっている。子供のころに磁石で遊んだ経験を思い出してほしい。棒磁石のN極とN、S極とS極は反発し合い、N極とS極ならば引き合って安定する。

 水平磁気記録方式では記録されたデータを構成する磁石は前者のN極とN極、S極とS極という形で並んでいるため、不安定な状態にある。分子は熱でランダムに運動を起こしており、あまりに小さな記録の場合その不安定さのため、熱によるランダム運動の結果、長期間使用しているとデータが消えてしまう。

 以前(5年ほど前)は水平磁気記録方式での記録密度限界が1平方インチあたり20〜40Gbitと言われていた。これに対策を施したのが反強磁性結合メディア(AFC:Antiferromagnetically-coupled、または交換結合型磁気記録:SFM:SyntheticFerrimagnetic)で、磁性体の間に数分子分の厚みの極薄のルテニウムの膜を入れることにより上下で磁界を反転、引き合う形態にすることによって記録を安定させ、記録密度の向上を図った(図2)。

 これにより1平方インチ当たり100Gbit程度まで限界を伸ばすことに成功し、さらに磁性体の改良やルテニウム層を増やすことによってさらに伸びた。とは言え、水平記録を使う以上根本的な原因は解消されないため、不安定さは残ってしまう。そこで注目されるようになったのが、垂直磁気記録方式である。

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