プロプライエタリなソフトウェアが基幹アプリケーションに向かない理由Magi's View

HDDに障害の予兆。この時点でITマネジャーのスタンは、プロプライエタリなソフトウェアが大きな問題になるとは思いもしなかった……。

» 2006年08月31日 13時53分 公開
[Robin-'Roblimo'-Miller,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 中規模の卸売会社でITマネジャーをしている友人の話である。8月上旬のある日、勤務先のサーバに接続しているHDDに障害の予兆が出た。このHDDには、同社で使っているクレジットカード処理ソフトウェア(プロプライエタリ)が格納されている。同社の在庫管理・会計ソフトウェアパッケージ(プロプライエタリ)との連携を重視して選んだソフトウェアだ。わが友人――ここではスタンと呼ぶことにする――は、そのとき、これが大問題になるとは思いもしなかった。こともなげにカード処理ソフトウェアを別のHDDにインストールし直し、こんなこともあろうかとバックアップしておいた顧客データをコピーして、その日は帰宅した。ここまでは、まず順当である。しかし、カード処理プログラムを同社に販売したソフトウェアメーカーに電話したところから、状況は一変した。スタンと彼の上司は憤慨し、そして走り回ることになったのである。

 スタンが電話でカード処理ソフトウェアのメーカーに求めたのは、単に、新たにインストールしたソフトウェアを「解錠」する鍵だった。これはソフトウェア・メーカーの顧客サービス部門ならどこでもよく受ける請求であり、担当者がソフトウェアの購入を確認し、新しい鍵を電子メールか電話で伝えれば一件落着となるはずのものだ。

 しかし、このソフトウェアメーカーの対応は違った。「申し訳ありませんが、古いソフトウェアの新規登録は受け付けておりません。最新バージョンにアップグレードしてください。アップグレードは有償(数千ドル)です」

 そして、次のような事情が判明した。このカード処理ソフトウェアを販売したメーカーはより大きなソフトウェアメーカーに買収され、買収したメーカーはそのソフトウェアを換骨奪胎した。そのため、既存の顧客が緊急事態で再登録したい場合も含め、古いバージョンのサポートを完全に放棄し、その上、新バージョンにアップグレードしなければならない、ほかに方法はない、応ずるか諦めるか、二つに一つだと主張したというわけだ。

 恐喝のようなこの態度にスタンは――彼の上司はそれ以上に――激怒したが、アップグレードするにしても最大の問題は新バージョンが現行の在庫管理・会計システムと連携可能かどうかだ。考えてもみよ。インターネットや電話での販売が売り上げの大半を占める企業にとって、最も一般的な支払い手段であるクレジットカードの処理ができないのは大損害だ。長引けば、悲劇的な結果に直結する。従って、このような場合に取るべき明白で妥当かつ堅実な道は、正常動作が分かっている既存のソフトウェアを再インストールし、その後新バージョンを慎重に試用することなのだ。しかし、スタンにはもはやこの道はない。

 スタンが次に試みたのは、辛うじて動いているHDDを丸ごとコピーすること。コピーしたドライブが正常動作する可能性に賭けたのだ。同じ経験を持つ方ならよくご存じのように、この方法はうまくいくこともあるし、いかないこともある。そして、これもご存じのように、ギガバイト級のドライブだと一晩中付きっきりの作業になる。システム管理者やITマネジャーとしてはやりたくない作業である。しかし、スタンは試みた――そして、うまくいったのだった。

 これにも失敗したときは、当面の対策として、クレジットカードを手作業で処理するつもりだったという。レストランや小売店でよく見かける方式である。

 さて、長期的対策だが、当然、現行カード処理ソフトウェアを大枚をはたいてアップグレードすることは入っていない。Linuxユーザーでありオープンソースを信奉するスタンは、この機会をとらえて、オープンソースはプロプライエタリなソフトウェアよりも質が高く安価なだけでなく安全でもあると上司に説明した。

 しかし、問題は、同社のプロプライエタリな在庫管理・会計ソフトウェアと連携可能なオープンソースのクレジットカード処理プログラムがあるかどうかだ。なければ、同社は自社が必要とするソフトウェアの製作を支援することになるかもしれない。あるいは、現在のプロプライエタリな在庫管理・会計パッケージに代えて、オープンソースのものを慎重かつ時間をかけて調査することになる可能性もある。そうするにしても、この移行は同社にとって大がかりなものになり、数年はかかるだろう。

 だが、ここで肝心なことは、中規模企業の幹部全員がプロプライエタリなソフトウェアの危険性を身にしみて学んだということだ。そして、これまではオープンソースに抵抗感を持っていた幹部が、今では、経費節減のためというより業務の継続のために、オープンソースの検討にやぶさかではないということである。

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