本音を引き出す「バトンマーケティング」(2/2 ページ)

» 2006年09月17日 13時50分 公開
[森川拓男,ITmedia]
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 この「不幸の手紙」が電子メールの世界にやってきたのが、「チェーンメール」と呼ばれるものだ。多くの場合は「不幸の手紙」とは異なり、善意の内容が多いのも特徴となっている。しかし、文末には決まって「この内容を多くの人に伝えてください」などという一文が添えられている。郵便物と違って簡単に送信できる電子メールでは、「早く送ってあげなければ」という気持ちとともに、あっという間に増殖する特性がある。例えば、テレビ番組などの企画によるものや、病院で血液が不足している……、などといった、至急転送してほしい内容までさまざまだ。

 これはまた、不特定多数に勝手に送信されてくるメールなので、スパムの一種と判断して差し支えない。仮に知り合いが送ってきたのならば、止める勇気と、相手に止めさせる勇気が必要だろう。

 チェーンメールの恐いところは、大多数に一気に送信することが可能、という電子メールの特性を悪用したところにある。例えば1人が作成したチェーンメールを10人に送信する。その10人すべてがまた、10人の相手にメールを転送する……、これがどんどんつながれば、大量のチェーンメールがインターネットの中を駆け巡ることになる。これが何千、何万という数に増殖すれば……。この先は言わずとも分かるだろう。メールサーバにメールが蓄積され、下手をすればサーバサイドの許容量で受信できないほどになってしまうかもしれない。

 先のアンケートでは、最後にチェーンメールを受信したことがあるか、という設問も含まれている。最も多かったのは「受信したことがない」の585人だったが、「受信したことがあるが、回したことはない」が428人も存在した。そして憂慮すべきは「受信したことがあり、回したこともある」79人だろうか。ここは個々が意識改革することが必要となろう。

 さて、ブログを媒体にしてつながる「バトン」はどうだろうか。

 先に書いたようにバトンも、このバトンを回す人を書くようになっている。そして、指名された人がまた、自分のブログに書く……といった具合に回っていくのだ。多くのバトンでは、複数人に回すようになっているからこそ、そこだけを見ると「不幸の手紙」や「チェーンメール」のブログ版ではないのか、と思ってしまう。実際、バトンに対し疑問を持つ人は、そのように感じることもあるようだ。

 しかし、チェーンメールと違ってバトンの場合は回ってきても、そのバトン内容が自分のブログの趣旨にそぐわない場合などは、答えなかったり、ほかの人に回さなかったりすることも多いのは、先のアンケート結果からも明らかだ。そこがチェーンメールと違うところだ。

 不幸の手紙やチェーンメールでは、「必ず回さなければ」という強迫観念が植えつけられるようになっているのに対し、バトンはあくまでもアンケートのようなもの。確かに、答えて回せばつながる気がするが、別にバトンでなくてもコメントやトラックバックを使えばよい。答えなければつながりがなくなる類いのものではないのだ。筆者が冒頭で提示した、バトンとスパムの相違点は、そこにある。

 つまり、バトンとスパムは似て非なるもの、なのだ。

既存のバトンを活用した本音マーケティング

 さて、ここまでブロガーがバトンについてどのように思っているのかの考察と、バトンとスパムとの違いを見てきた。ここで、冒頭でも述べたバトンを使ったマーケティングについて考えてみたい。

 バトンマーケティングといっても別に、企業がマーケティングのためにバトンを開始する、ということではない。もちろん、そのようなことも不可能ではないだろう。実際に、誰かがマーケティングのために仕掛けたのではないか、というバトンが幾つか回っているようだ。しかし、仕掛けが成功し、最後まで全うされた場合はよいかもしれないが、否定が連鎖すると、ほかのブログマーケティング同様に失敗する恐れがある。

 企業がさまざまな手法に取り組むことは重要であり、待ちの姿勢ではなく攻めの姿勢はネットマーケティングの基本でもある。その一環として、情報伝達力の早いブログに注目されているわけだ。特定テーマ(商品など)についてブログを書いてもらい、それに対して報酬が出るようなサービスが複数登場しているのは「攻め」の姿勢を表しているといえるだろう。それらサービスでは、そういう依頼があったということなどは書くことが禁じられている。つまり、ブログ読者からすれば、そのブロガーが自発的に注目して書いたのだなと思わせることが重要なのだ。これはすでに事業として成り立っており、「プレスブログ」や「ブログクリップ」「ブログルポ」などといった複数のサービスが、企業とブロガーをつないでいる。

 しかし筆者が注目したいのは、この点ではない。すでにブロガー間を回っている普通のバトンを利用したマーケティングだ。すでにあるものを利用する、というと「待ち」の姿勢かと誤解されかねないが、そうではない。自ら探していく、これもまた「攻め」のマーケティングとなるだろう。

 例えば、コーヒーについてマーケティングする場合を考えてみよう。「バトン コーヒー」というキーワードで検索してみれば、そのものズバリ「コーヒーバトン」といったものから、回答や選択肢に「コーヒー」が含まれるバトンまで、いろいろ出てくるはずだ。そこで幾つかを実際に見て、これはいけると思ったバトンの名前で検索してみよう。バトンにもよるだろうが、かなりの数のサンプルが集まるはずだ。しかも、これらのバトンは、企業からお仕着せで行ったアンケートと違って、ユーザーが好きに書いているものだ。

 女性の口コミをマーケティングに取り入れている企業では、街角で女子学生や主婦などの会話からリサーチを行うという。自分の自由に書くことができるブログ上のバトンからは、それら以上に本音が見えてくるかもしれない。いや、より本音が浮かび上がってくるのは間違いない。

 すでに、ブログを利用したマーケティングは、先にも述べたようにさまざまな試みがある。ここで新たに「すでに出回っているバトン」を組み込むことで、企業のマーケティング戦略に新たな可能性が見えてくるのではないだろうか。IT業界に限らず、あらゆる業種で有効なマーケティングになるはずだ。今後の動向に注目していきたい。

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