組織の中に潜む敵を知る企業にはびこる「間違いだらけのIT経営」:第14回(1/2 ページ)

新しいことに取り組む場合、抵抗勢力が必ず台頭する。企業が生き残り、成長を続けるには、不断の創造的破壊と新しいことへの挑戦が必須だ。しかし、そこにも抵抗勢力は必ず出てくる。IT導入の場合も同じである。

» 2006年09月27日 13時30分 公開
[増岡直二郎,アイティセレクト編集部]

 抵抗勢力に対して経営陣や関係者が気付かなかったり、気付かぬふりをしたり、あるいは触らぬ神にたたりなし、という態度を取ったり、それでいながら陰で悪口を言うようなことが少なからず見受けられる。これは言うまでもなく、経営の大きな間違いである。

 特に業務改革という創造的破壊を伴うIT導入に抵抗する勢力に対しては、容赦ない姿勢で臨まなければならない。そのため、ここでは通常の議論と異なる視点で検討してみたい。

まずは敵を知れ。抵抗勢力を見極めよ

 まず、IT導入に対する抵抗勢力と見なされる人々の本質を見極める必要がある。

 一般的に、抵抗勢力になりやすい人々は優秀な人・評価の高い人、あるいは古参社員だとされ、それは過去の成功体験を忘れられず、新しい価値観を受け入れることに抵抗を感じるからだと考えられることが多い。従って、過去のしがらみや古い価値観から自由になれる一匹狼など異端児の方が、新しいことへの取り組みやIT導入の力になれるのだと思われやすい。

 しかし本当にそうだろうか。身の周りをよく観察してほしい。実態は逆ではないのか。抵抗する人々の実態を、筆者の体験からトレースし、分析してみた。

 A社はSFAを導入したが、職人気質のB営業部長は決してSFAを使おうとしなかった。営業日報は手書きや口頭報告の方が人情の機微を伝えることができるとか、顧客情報などの入力に手間がかかって本来の営業活動が疎かになるなどと言って、SFAに非協力的だった。それは一理あるにしても、会議の席上で公然とSFA批判するBに対して幹部のだれ一人真相を究明するでもなく、むしろトップが短絡的に情報部門にシステム見直しを命じた。職場に隠然たる力を持つ職人気質のBは、ITに対して食わず嫌いの感覚を持った守旧派だった。

IT恐怖症、自己顕示欲、抵抗理由はさまざま

 C社は、実習中の新入社員に週誌を書かせて、メールで回覧させていた。ある日D取締役にE設計部長から、配下の実習生の週誌が2カ月分まとめて送信されてきた。その直後の会議で、DはEに週誌を遅滞なく回覧するように注意を与えた。特に新入社員に社内のずさんなやり方が悪い影響を与えることを恐れた。Eはパソコンが苦手でめったにパソコンを開かない自分のことを棚に上げて、やれ「実習生を管轄する勤労部が、週誌の趣旨を徹底しないからだめなのだ」とか、やれ「1、2カ月の遅れは、実害がない」とか言い訳をした。Eは、週誌回覧の遅滞を反省しない姿勢そのものがもちろん問題だが、IT恐怖症だったのだ。

 F社が、CIOであるG取締役が主導するメインフレームコンピューティングシステムから、H取締役という新CIOを迎えてクライアントサーバーシステム(CSS)へ移行しようとしたとき、Gは徹底してCSS導入の邪魔をした。CSSはトップ承認のプロジェクトだったので、表面で反対できないGは陰で、新任Hの経験不足を批判したり、CSSは必ず失敗すると吹聴したり、昔の部下である情報部門長を呼びつけてけん制したり、果ては投資伺い承認に難渋な姿勢を示した。その理由は、Hが直接Gに確認したことがないから分からないが、日ごろの言動から察するにGのプライドがそうさせたのだろう。Gは早い時期に親会社からF社に転属させられているが、何故か潜在的に敗者意識が強く、自己顕示欲が強かった。

 筆者の体験の中から敢えて典型的な例を列挙したが、これらをいきなり一般化するつもりはない。しかし、この例と筆者のそのほかの経験と、さらに多くの人々の意見を勘案すると、幾つかのことが分かってくる。

 まず、優秀と見なされる人は先見性があり、大局的見方ができ、協力的である場合が多く、そのために評価も良く、また古参社員には全社的視点で思慮深く言動する人が少なくなく、いずれも創造的破壊を必要とする新しいことを受け入れることにむしろ抵抗はない。

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