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» 2006年10月03日 08時19分 公開

金利から読み解ける地方財政の実情驚愕の自治体事情

自治体が資金調達を目的に発行する「地方債」は、市場からの資金を募るタイプが主流になりつつある。最近では市場原理が適用されたことで、自治体ごとの差が明確に可視化されつつある。

[西尾泰三,ITmedia]

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 「地方自治体に金はない、残されているのは時間だけ」――自治体の現状をこう表現したのは、長崎県総務部参事監の島村秀世氏。厳しい財政状況の中、自治体における資金調達が新たな局面に来ていることを感じさせる。

 自治体の歳入を増やす方法として、「地方債」という債券を発行する方法が考えられる。しかし、財政投融資改革や郵政民営化の影響や、地方分権を推進するという観点から、地方債における政府資金などの公的資金は見直し/縮減の対象となっており、地方債における政府資金の割合は4割を下回っている。代わって市場からの資金調達を行うタイプの地方債が明らかに増えてきており、併せて地方財政に占める割合も高くなってきているのが現状だ。

 基本的にすべての自治体に発行が認められている「住民参加型市場公募地方債」は、発行額や利率、償還期間などは自治体側で自由に設定できることもあり、多くの自治体で発行されている。総務省が発表している発行実績を見ても年々実施する自治体が増えていることが分かる。

 住民参加型市場公募地方債について、最近では、鳥取県鳥取市が「とっとり市民債(仮称)」(発行総額2億5000万円)、鹿児島県が「観光かごしまパワーアップ債」(発行総額20億円)、秋田県大仙市が「だいせん夢未来債」(3億円)をそれぞれ発行すると発表している。こうしたトレンドは当面続くものと予想される。

10月に住民参加型市場公募地方債を発行予定の自治体
自治体 発行予定額
群馬県 40億円
千葉県 50億円
新潟県 50億円
名古屋市 30億円
室蘭市(北海道) 3億8000円
浦安市(千葉県) 3億円
倉敷市(岡山県) 10億円
高松市(香川県) 5億円

 金融商品という視点で考えると、国債と同等以上のリターンが得られないなら、わざわざこうした地方債を購入する意味はあまりない。このため、同時期に発行される国債よりも高い利回りが設定されるのが地方債の特徴だが、我孫子市が発行した「オオバンあびこ市民債」のように、国債の利率を下回る利率で発行されたにもかかわらず、募集予定額を上回るケースが生じることもある。住民参加型市場公募地方債で得られた資金の使用目的が、生活密着型の事業に使われることが多いため、住民からすれば間接的な付加価値があると考えられ、それが地域住民の投資意欲につながっていると思われる。また、コンサートへの招待や、観光施設の入場料を半額にするなどの特典が付くことも珍しくないのが住民参加型市場公募地方債の特徴だ。

 一方、安定的に多額の資金を確保するために住民参加型に見られる縛りのない全国型市場公募債を用いる自治体も存在する。地方債では、一部の自治体を除き、横並びの金利で国や民間金融機関から借り入れるという融資に近い性質があったが、ここにきて、市場公募債はすべての自治体が独自に金融機関と交渉し、金利を決定することになった。これはつまり、市場公募債に市場原理が導入されたことを意味する。

 すでにそうした市場原理による自治体格差は明確に現れている。9月に発行された地方自治体の市場公募債は、10年国債(9月発行)の金利(表面利率)が年1.719%であるのに対し、1.8%台から2%台と自治体ごとに異なる。東京都のように比較的優良と言われる自治体は1.8%台であるのに対し、財政難が指摘される大阪府が2%台になっているなど、市場の動向と連動した金利となっていることが見て取れる。

 そうした市場原理が有利に働くと考えている自治体もある。この10月に100億円規模の全国型市場公募債をはじめて発行する大分県もその1つだ。同県では従来、住民参加型市場公募地方債を発行してきたが、今回全国公募に踏み切ることにした。大分県では、実質経済成長率が全国1位(内閣府平成15年度県民経済計算のデータ)であることなどをアピールすることで、低金利での調達を目指している。

 市場公募債に市場原理が導入されたことは、自治体の行財政運営を可視化することにつながるため大きな意義を持つが、その構造的には、財政状況が厳しい自治体の資金調達がより厳しくなるというリスクも生じる。上述の例だと、同じ500億円を調達しようと思えば、大阪府は1億円近い金利を余分に払わなければ資金調達ができないことになる。また、投資収益率が重要視される以上、地方自治体が行う事業との整合性、つまり、収益性が低ければ(社会インフラ的には必要であっても)やらない、という判断につながらないかという懸念もある。

 いずれにせよ、今後自治体は、責任のある行財政を行うことは言うまでもなく、情報開示を推進していくことが強く求められることになる。すでにこうした動きは活発化しており、これらの動向も注目される。

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