県内すべての自治体による公共事業のコスト縮減施策――島根県驚愕の自治体事情

自治体の多くが厳しい財政事情に苦しむ中、公共事業で用いられる積算システムにも改革のメスが入りつつある。ここでは、県内すべての自治体が共同開発・運用する形態のWeb型積算システムを全国に先駆けて導入、その運用を開始した島根県を取り上げる。

» 2006年10月04日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

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 地方の財源が苦しい状況にあることは、実際の現場で奮闘する方の言、そして、地方債に見られる動向などで紹介してきた。これは島根県でも同様だ。

 平野の周辺部から山間部に至る、まとまった耕地が少ない地域、いわゆる「中山間地域」を広範に抱え、分散型の県土構造を持つ島根県では、脆弱な財政基盤に起因し、道路や公園、病院といった社会資本の整備は大きく遅れている。同県では「より良いものをより安く提供する」という観点から公共工事を実施するとしているが、これは裏を返せば、厳しい財政事情の下、限られた財源を有効に活用することが求められていると言える。

 公共工事について、そのコスト縮減を図るという認識は、政府の「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」の策定、これを踏まえて各省庁が策定した「公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」などに見られるよう、ほぼ一致した認識となっている。

 島根県においても、「島根県公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」を策定、これに基づいた施策を推進してきた。同計画に基づく1997年度から1999年度の3年間の取り組みを見ると、コスト縮減率が10%を超えるなど、目標として掲げられていた数値は達成することに成功している。

 とはいえ、依然として厳しい財政事情にあることは変わりなく、工事コストの低減だけでなく、工事の時間的コストの低減、工事における品質の向上によるライフサイクルコストの低減などについても取り組むべき重要な課題となっていることから、これらも含めた総合的なコスト縮減を図っていく必要があるのが島根県の現状だ。

全国初の試みとなる積算システムの構築

 このような状況下で、島根県と県内21市町村、県企業局や土地開発公社、県土地改良事業団体連合会など10公共事業発注団体は共同で、公共工事の積算システムを開発、10月2日から運用を開始した。県内すべての自治体が共同開発・運用を行うのは全国でも初のケースとなる。

 従来は財団法人など公共工事を発注する団体が個別に開発/運用されてきた積算システム。公共工事の発注時に工事費などを算出する積算基準が土木、農林土木、農業集落排水、水道といった工事ごとに異なることがこのような状態を生み出した背景にある。島根県では、昭和58年に初代となる公共工事積算システムを導入、ついで1996年10月には現行のシステムを導入した。現行のシステムで県と同様のシステムを利用しているのは11市町村と6公共工事積算団体であった。

 こうした状況のため、利便性の低さや、運用経費の増大はたびたび指摘され、また、同システムで利用されているWindows NTのベンダーサポートが2004年12月に終了していることもあり(関連記事参照)、速やかな新システムへの移行が求められていた。

 コスト削減を実現しつつ、前記の課題を解決するために同県が採用したのは、県と全市町村、主要公共施設を結ぶ全県域WANを活用し、既存資産を生かした「Web型積算システム」だった。Web型積算システムの導入事例は全国でも数例。富士通などを中心とする共同企業体が落札、システムを構築した。なお、すでに稼働している同システムだが、当面は従来のシステムと平行して稼働させる予定となっている。

 新システムへの移行によるコスト削減効果は、5年間の運用(およびその開発)で、従来なら7億円近く掛かっていたものが、約2億3000万円にまで縮減されている。市町村などとの共同開発/運用であるため、県分が負担するコストは約1億4000万円となる。

コスト縮減効果。1年当たり1億円の縮減を実現している(出展:発表資料より)

 また、副次的な効果も発生した。それまでは、歩掛り(作業を行う場合の、単位数量または一定の工事に要する作業手間ならびに作業日数)自体は共通だったが、設計書の様式に多様性があった。それが、システムが集約されたことで、様式の統一が進み、発注事務の透明性へとつながった。

 現在島根県では、「島根県長期計画」の実行計画として2000年2月に策定された「島根県第3次中期計画」に基づき、生活基盤整備などの諸施策を積極的に進めている。ここでは、長期的コストの低減を基本的な視点として、公共工事に関する総合的なコスト縮減を目指している。長野県でも積算システムにオープンソースソフトウェアを用いてコスト縮減を図る動きが見られるが、公共事業に関するコスト縮減施策については、これまでそれほど着手されてこなかった分野だけに今後も各自治体から相次いで動きがあると見られる。

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