.NET Frameworkの基本仕様「CLI」、そのJIS化への取り組みを追う(2/2 ページ)

» 2006年11月28日 11時30分 公開
[大河原克行,ITmedia]
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用語統一に労力、翻訳作業にも大きな努力

 委員長、幹事、委員を含めて16人で構成されるJIS原案作成委員会では、JIS化の作業に向けて用語の統一から開始した。

 「用語の議論には多くの時間をかけた」というように、約2カ月に及んだ用語統一作業では、一般的にはまだ通用していないと考えられる用語に関しては、できる限り英語音のカタカナ表記を避けることを前提とした。その一方、マイクロソフトが規定した用語、C++で使用される用語、業界で一般的に使われている用語などについては、「利用者が混乱を起こさないレベルの用語」としてそのまま用い、取りまとめていった。

 ここで決定した用語に関しては、JISの用語委員会や経済産業省の関連部門で審議が行われ、その結果が、JIS原案作成に盛り込まれている。

 一方、作業量として最も多くの時間を割いたのは、なんといっても翻訳作業であった。890ページに上る英文による規格原案を翻訳する作業は、大変な労力を要した。しかも、単なる翻訳ではなく、技術的な専門知識、技術的背景などを知った上で翻訳する必要があったため、英語スキル、技術スキルの高い人材が委員には求められた。

 「翻訳作業を進めていくうちに、英文での原案自体に、間違いがあったり、不明瞭な部分がいくつか散見された。これらは、英語の理解力だけでなく、技術的な裏付けがないと発見できないもの。修正が必要と思われる部分に関しては、ECMA TC39 TG3の会議に、委員会のメンバーか参加し、英語原案の改訂作業に協力するといったことも行った。実際、日本からの提言によって、原規定の修正が行われている例もある」という。JIS化の作業が、国際標準原案そのものをより完成度の高いレベルへと引き上げる役割も果たしたといえよう。

 また、翻訳作業と並行して、JISテンプレートに基づく文書作成という作業も発生した。JISで規定された様式に合わせた形に変更する作業にもかなりの時間を要した模様だ。

 しかし、委員の懸命な努力もあって、JIS化に向けた作業は、わずか1年で完了することができた。その後、財団法人日本規格協会がJIS X3016としての発行に向けた最終的な取りまとめを行い、11月20日から、日本規格協会のオンラインサービスを経由して、PDFの形で販売されている。オンラインで販売されているJIS X3016は、PDF形式で442ページに上るものとなっている。

 黒川氏はCLIのJIS化の意義を次のように語る。

「これまで言語実行環境をきちんと記述した技術書が日本にはなかった。JIS X3016は、コンピュータサイエンスを学ぶ学生や、企業で働くエンジニアのための教材としても活用できるレベルに達している。オブシェクト指向のクラス体系を学ぶ教材としても最適であり、ぜひ、日本のエンジニアの技術水準を向上させるツールとしても役立ててもらいたい。また、大手企業のみならず、日本の多くの企業がCLIを採用していく土壌が、今回のJIS化で実現できたと考えている。Windows以外のOSプラットフォームでのプログラミング言語非依存アプリケーション実行環境の実装、それらのプラットフォームとWindowsプラットフォームとの相互運用性の実現、およびCOBOLなどの各種のプログラミング言語が.NET Frameworkへと数多く対応することを期待している。携帯電話などの日本固有のデバイスに実装するなど、異なるプラットフォームが、.NET Framework上で相互運用できるといった具体的な動きも出てくるだろう。」

「一方、CLIはシステムの安全性に対しても配慮がなされたセキュアな実行環境を実現していることから、その点でも有用な活用が期待できる。さまざまな観点からのメリットを、日本の産業界にもたらすことができるはずだ。」

 JIS原案作成委員会の活動は、一応の終了を見たが、今後は、総称機能などを備えた新しいCLI標準への改訂に着手することも考えているという。

 今回のJIS化の動きを捉えて、将来は情報処理試験の1つに加わることを期待する声が早くも業界内では上がり始めており、CLIのJIS化が及ぼす影響は各方面に広がりそうだ。

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