“ロボット屋”がつくる無線センサーネットワーク次世代ITを支える日本の「研究室」(2/3 ページ)

» 2006年12月01日 00時10分 公開
[富永康信(ロビンソン),ITmedia]

「素人発想」から生まれた低コストネットワーク

 産総研の知能システム研究部門空間機能研究グループでグループ長を務める大場光太郎氏は、この開発を主導した中心人物。同氏たちの研究グループは、芝浦工業大学の工学部複合情報システム研究室の協力の下、温度/湿度センサーを備える100個以上の無線ネットワークノードを構成した状態で精度の高い情報収集に成功し、センサーネットワーク実用化の道を開いた。

 「われわれロボット屋は、ネットワークが専門ではなかったため、こだわりなくスター型ネットワーク構成を選択できたのだと思う。また、ノードの機能はスッパリと割り切り、単価を抑えた形に構成を変えたことも低コスト化を実現できた要因だ。100個以上のスケーラブルなセンサーネットワークでも、現実的なコストを踏まえた形で研究がスタートできた」と語る大場氏は、その基本にあるのは素人発想だったと振り返る。

画像 産総研知能システム研究部門空間機能研究グループ長の大場光太郎 工学博士(筑波大学教授/芝浦工大助教授)

 そのため、大場氏たち産総研の方法なら導入を検討してみたいという企業が相次いだ。2003年ごろにブームが下火になったとき、そのまま技術が消えていってしまうのかと思われたが、低コストかつ大規模に実現できるセンサーネットワークなら、需要は依然として高いことが判明したわけだ。ユビキタスによるセンサーネットワークの実用化は数が勝負となる。産総研のノードの単価は、スマートダストの10分の1となるため、センサーを配置できる規模が10倍に拡大できることになる。そうなると、収集できる情報量がまるっきり違ってくる。

 価格とスケーラビリティのほかに、省エネルギーもキーワードとなった。無線のセンサーノードは個々に電源(ボタン電池)を背負っているため、利用価値に消費電力が大きく影響する。例えば、電池1個の稼働時間が3カ月ならば、3カ月ごとに電池を交換する作業が必要となる。仮にノードが1万個もあったら、それだけでも大変なコストだ。しかし3カ月が3年持つとなれば、事情は異なる。

 大場氏たちがセンサーネットワークノードを開発した際に、最も重視したのも消費電力だった。その結果、業界でも群を抜く低消費電力を達成できたため、企業からの興味を引き付ける結果となったようだ。

図3 ノード本体に各種センサーを実装した例

開発効率やコスト削減に貢献するロボットミドルウェア

 そして、産総研らしさが最も発揮できた背景に、ノードのほかにもRTミドルウェアの存在があった。RTミドルウェアとは、ロボットシステムの機能要素(センサー、サーボ、モーターなど)の通信インタフェースを標準化して、ユーザーのニーズに合わせたロボットシステムを容易に構築するための基盤技術のこと。個々に存在するロボットの要素を柔軟につなげる役割を受け持つ。

 「センサーネットワーク専用のミドルウェアは、世の中に数多く開発されているが、産総研ではロボット研究にRTミドルウェアを活用していた素地があり、それを今回のセンサーネットワークにも利用した。一般にはあまりなじみのないこのミドルウェアだが、今後のロボット開発スピードの向上やコスト削減に大きく貢献するだろう」(大場氏)

 事実、センサーネットワークの開発期間も導入前の半分になるなど、RTミドルウェア活用の効果は大きかったようだ。センサーネットワークは、空間に拡散したノードをつなぐものであり、従来のアプリケーションでプログラムを記述しようとすると大変な手間が掛かる。

画像 ネットワークノードの一部にドライヤーで熱を加える
画像 ドライヤーで加熱したノード部分に温度変化が表れる

 ノードは、データを送信したらクローズするということを繰り返す。送信元と送信相手が1対1ならいいが、1対10なら10通りのコンビネーションとなるので、それらすべてをアプリケーションでは管理できない。RTミドルウェアは分散オブジェクト技術のCORBA(Common Object Request Broker Architecture)をベースに開発しているため、コンポーネントがどこにあるかは関係なく、ネットワーク上にノードをつなぐには最適だった。

 また、このRTミドルウェアはNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業プロジェクトで開発したもので、評価用の「OpenRTM-aist」は無償で公開されているため誰でも利用できるという。

関連キーワード

産総研 | ロボット | 研究開発


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ