“神業”の実現目指す量子コンピュータ研究の今次世代ITを支える日本の「研究室」(3/3 ページ)

» 2006年12月19日 08時00分 公開
[増田千穂(エースラッシュ),ITmedia]
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「神業」はいつ手元にやってくるのか

 では、量子ビットの材料として何を使うのかといえば、さまざまな例がある。光、液体中の分子、トラップされたイオン、トラップされた原子、人工原子、共振器内の原子と光子と数ある中で、理化学研究所は超伝導素子(ジョセフソン素子)を選択している。

 「どの方式が楽、正解に近い、というものはない。例えば、光は外乱には強いので実験環境を整えるのは楽だが、操作が難しい。わたしたちが選択したジョセフソン素子は比較的大きな量子的現象が出るため、実験がやりやすいというメリットがある。それぞれに利点と欠点があり、実験結果もそれぞれが争っている状態」(丸山氏)

 現状では神業だとしか思えないことを実現しなければ、量子コンピュータというものは作られない。では、その「神業」が達成されるのはいつのことなのだろうか。

 丸山氏は「非常に楽観的な予測で、20〜30年後に出来上がるという予想がある。悲観的な予想では、永遠に無理だというものまである。個人的な印象では、今あるやり方では50年程度で実現するとは思えない。あまりにも苦労が大きく、道のりが遠すぎるといった印象だ」と悲観的にコメントをしているが、量子コンピュータの実現そのものを否定しているわけではない。

 「今、研究者の間では、1ビットから2ビットと増やしていくのではなく、いきなり100ビットを相手にするような奇襲的なやり方を模索しようとしている。仮にこれができれば、一気に実現に近づくのではないかと期待している。われわれが生きている間に実現するためには、そんなやり方にも大いに挑戦したい」(丸山氏)

異分野からのアドバイスが結果を生み出す場合も

 研究前進の壁となっている外乱については、それを除去するだけでなく、その影響そのものについての研究も進めなければならないという。今の段階では、量子コンピュータという形での実現は非常に遠い道のりだが、大きな興味をもって量子の研究が進められたおかげで、量子力学や物理学、自然科学の基礎研究も進み、コンピュータサイエンスにかかわる問題の研究も進められた。周辺へのさまざまな効果は、すでに現れている。

 「物理や化学といったものに対し、拒絶反応を示す人が多くいる。しかし実際は、言葉は難しくとも、決して理解できない内容ではないはず。私たち研究者も、分かりやすく説明することを心がけるべきだが、ぜひ理解する努力をしてみてほしい。芸術やスポーツなど、異分野からのアドバイスがヒントとなり、何かの結果を生み出す可能性もある」と丸山氏は語る。

 楽観論通りに量子コンピュータが出来上がったとしても、軍事利用などを経て実際にわたしたちがオフィスや家庭で使えるようになるのは、さらに数十年後になるだろう。もしもそれが実現すれば、生きているうちに手元にあるコンピュータが量子コンピュータになるかもしれない。現段階ではまだ夢でしかないが、そんな「夢のコンピュータ」の実現を期待して見守りたい。

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