「巻き込みマネージャ」と「クールなユーザー」「行く年来る年2006」ITmediaエンタープライズ版(2/2 ページ)

» 2006年12月27日 11時00分 公開
[大西高弘,ITmedia]
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「巻き込み」の巧みさ

 海外生活サポート事業を手がけるラストリゾートの情報システムグループチーフの名取和高氏は、現在ERPパッケージ導入に取り組んでいる。マーケティング、販売管理、会計の各システムをSAP製品をベースにして統合するというプロジェクトだ。

 名取氏は途中入社組で、旧システムについては「土地勘」がない。その中で新システムへの移行に取り組むのだから大変な作業である。

 新システム構築にあたっては、社内のユーザー層とのミーティングは欠かせない。名取氏は「とにかく最初は言い分を全てだしてもらう」ことに努めたという。「前職でSAP導入の経験があった。でも、SAPのシステムはこういうものです、なんて事前説明はまったくしない。パッケージを入れるということもユーザーには念頭に置かないようにしてもらって、希望を出してもらった」(名取氏)。

 希望を聞くと同時に各ユーザーの業務の見直しをしていき、ミーティングへの参加率をどんどん上げていった。鈴木氏の話を聞いていると、ユーザーの巻き込み方を心得ている人だという印象を持った。パッケージ導入ありきで進めてしまうと、導入側とユーザー側で持っている情報量に差が歴然としてしまい、ユーザー側に参加意識が薄れる可能性がある。「そういうことならご勝手にどうぞ、ただし私の仕事はふやさないでね」という感情が生まれやすい。

 SAP導入の経験があったということは、鈴木氏にとって大きなアドバンテージだったともいえる。社内で唯一のオーソリティというイメージを強調すれば、面倒な説明も省略できる。しかし鈴木氏はアドバンテージを「表」では使わなかった。

 「ヒアリングが終息したところで、構想中のシステムと希望との整合性を確かめていったんです。どうしてもこの仕組みが必要な場合いくらかかります。それだけのコストをかける必要性がありますか? そのコストに対してコミットメントできますか、と聞いていったんです」(鈴木氏)。

 ユーザーの要望をシステムの側面から確認し、コストを算出できる。鈴木氏はこのタイミングで自らのアドバンテージを利用したのだ。

 コストに対してコミットメントできるか、最初からこれを言うとユーザーは本当の希望を出しにくくなってしまう。誰だってリスクを背負いたくない。しかし、希望を出すだけ出した後だからこそ、導入担当である鈴木氏との一体感が発生したのではないか。

 ユーザーの反応について鈴木氏は次のように語る。「熟考した末、取り下げられた希望もありますし、しっかりとコミットメントできる、だからアドオンで作って欲しいと言ってくれたケースもあります。面倒なことから逃げようとする考えを持ったことなんて一人もいませんでした。どうしたらお客様にとって一番ストレスのない業務ができるのか、と本当に真剣に取り組んでいました」。

 鈴木氏はユーザーを真のプロジェクト参加者になるよう、うまく巻き込んでいったのである。

「クール」から「ホット」へ

 ERPも含めてどんなIT導入においても、社内ユーザーは「クール」な態度を最初は取る。中堅以下の企業が関心を持っているSFAでも同様のはずだ。仕事が増えるかもしれない、という警戒心もあるが、もう一つあるのは「これまでの自分の仕事を否定されるのはたまらない」という思いもある。

 ERP導入を専門に手がける日本総研ソリューションズの岡田吉男氏はこんなエピソードを話してくれた。

 「ERP導入では、これまでの業務の洗い出しを必ず行います。あるプロジェクトでどうしても意味がわからないプリントアウトの業務があった。どうしてこれが必要なのか聞いても誰も納得できる回答が得られない。結局分かったのは、これまでずっとやってきたから、という理由だったんです。組織の中ではどうしてもこのようなケースがでてきます。一つひとつあたっていくしかないんですね」

 意味を明確に説明できなくても、他人から指摘されると、「何も知らないくせに」という態度が出てしまうことはよくあることだ。決して特別なことではない。岡田氏は「我々は外部の人間ですから、強い反発を受けることもある。その時納得してもらうために、同業他社のことを話すんです。もちろん社名などは出しませんが。こういう業務は多くの会社でこうやっていますと」と話してくれた。

 これは、企業内の導入担当者にも参考になることではないか。他社の事例などをよく研究し、情報の量を蓄えておくことも必要だ。また、前出増岡氏も「ERPパッケージを導入するとしたら、やはりいろいろな伝手を辿って相談を持ちかけることが大切です。中堅以下の企業の場合は特にそうです」と語る。

 ERP研究推進フォーラムの倉石氏も「ITコーディネーターなどの専門家に相談することも考えるべき。いきなりベンダーの担当者を呼んでも向こうの情報量に圧倒されるのが関の山です。下準備をしっかりしていないと、結局うまくいかない」と話す。

 ITは時に業務や会社そのものを変えてしまう威力を発揮する。緩やかだが回復基調にある経営環境の中で、旧システムのリプレースを含めて新しい取り組みが増加した1年だったといえるだろう。来年もおそらくこの状態が続くものと考えられる。新しい仕組みづくりだけでなく、その仕組みを組織の中にいかに浸透させていくかに腐心するITマネージャの姿をこれからも追い続けたい。

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