「巻き込みマネージャ」と「クールなユーザー」「行く年来る年2006」ITmediaエンタープライズ版(1/2 ページ)

「縮小から拡大へ」。2006年初頭、国内企業のIT投資は増加、攻めの経営に向けられるという予測が飛び交い、「復活」「反転攻勢」というキーワードがメディア等で踊った。そんな中、企業のITマネージャ、あるいはIT導入に深く関わったユーザーたちはどんな活動をしていたのか。ERP導入を中心に2006年の取材を振り返ってみた。

» 2006年12月27日 11時00分 公開
[大西高弘,ITmedia]

IT導入そのものが目的化する?

 2006年、エンタープライズ市場で話題の一つに上ったのが、中堅中小企業のERP導入が活発化するという予測だった。ガートナー ジャパンが8月24日発表した資料によると、従業員300〜999人の中堅企業が「今後3年以内新規導入を予定している領域」の中でもERP(統合業務パッケージ)はSFAなどについで上位を占めていた。

 90年代に輸入された経営概念を実現するシステムをついに日本の中堅企業が本腰を入れて導入を考え始めた、と思ったが、念のためと思い、夏にERP研究推進フォーラムに話を聞きに行った。取材に応じてくれた同フォーラムの倉石英一主幹研究員は、意外な反応を返してきた。「会計パッケージのネットワーク版などを入れて、これがERPです、というのなら導入意欲は盛り上がっているといえるでしょう。しかしそれは本来意味するところのERPとはいえない」。

 これは従来の会計業務を、各事業部門から吸い上げる仕組みとしただけでは、ERP=企業資源計画とは言いがたいという意味である。

売上高別ERP導入状況

 弊社発行の月刊誌アイティセレクトの連載コラムを執筆中のnaoIT研究所の増岡直二郎氏も次のように話してくれた。「ERPパッケージを入れることが目的になってしまうのは大変危険だ。パッケージを導入すれば、あらゆる経営情報が手元にすぐさま入ってくるようになる、と勘違いしている経営者は意外と多い」

 これを聞いて、実は別のことを考えてしまった。

「導入のきっかけ」の現実

 早くまとまった経営情報が見たいので何とかしたい、と考える経営者が「ERPパッケージを入れてしまえば、後は何とかなる」と早計に考えてしまうのは確かに危ない。今どきそんな牧歌的な発想を持った経営者などいるものか、と思う向きもあるかもしれないが、そんなことはない。例えば名前を出せば誰もが知っている有名企業でも、営業案件の情報を責任者が一望できる仕組みを持っていなかったりするのだ。

 規模の大小に関わらず、IT導入に関しては「とにかく何とかしろ」とゴーサインを出し、いわゆる部長、課長クラスのマネージャ層が具体的な詰めを行っていくのがおおよその流れだといっていいのではないか。

 増岡氏が指摘するように、ある種の大雑把な勘違いをしている経営者はどこにでもいる。もちろん、増岡氏もそれを承知であえて「ITに対して鈍感な経営者」に対して厳しい苦言を呈しているのだが…。

 しかし、ITに鈍感だが、同業他社の動向などには敏感で、他社がERPパッケージを入れたと聞くやいなや、突然、取り引きのあるベンダーを呼べと命じる経営者がいたとして、その下にいるマネージャ層の人たちはどう対処すればいいのか。現実問題として、個々の企業にとってそれが一番重要なポイントとなるだろう。

 突然パッケージを入れろなどという無茶は言わないが、ウチの上の方から降りてくる指示だって曖昧なものだよ、と感じているマネージャ層は多いだろう。何を求めているかははっきりしているが、IT活用によってどう実現するかを考え、日々悪戦苦闘している人たちは、情報システム部門だけでなく、さまざまな場所に存在する。

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