WLAN上の音声/データの共存は永遠の課題か無線LAN“再構築”プラン(2/3 ページ)

» 2007年01月11日 11時00分 公開
[寺下義文,ITmedia]

 したがって、より優先度の高い(AIFSが短い)送信キューを音声や映像などの通信に割り当て、データ系をより優先度の低い(AIFSが長い)キューに割り当てることで、音声は優先的に滑らかに、そしてデータ系は断続的ながらも合間を縫って送信することができる。つまり、すべての端末がこの手法にのっとって振る舞えば、音声系とデータ系の共存が成り立つというわけだ。しかし、これは同一の機種で統一されている場合に実現されるものである。

 フレームバースティングという言葉を聞いたことはあるだろうか? 802.11gが登場した際に、54Mbpsの伝送速度でつながった場合でも20Mbps程度しか実効速度が出ないという理由から、一部の機器でDIFSやBack Offを省いて送信する(フレームバースティング)という荒技が実装され、そうした機器がはんらんしてしまったのだ。

 また、Back Off自体の時間設定は各メーカーの実装に委ねられている部分であり、さらに乱数を発生させて変化させるものでもある。そのため、特定端末のキュー1の待ち時間が他端末のキュー4の待ち時間より長いという場合が起こり、音声よりもデータが優先されてしまうこともあり得る。

 つまり、今回登場したEDCAでは、異なるメーカーや異なる端末間の音声系とデータ系が混在する環境下で十分に機能しない可能性が高いのである。

期待されるHCCA

 802.11eでは、実はもう1つのQoSの実装も検討されている。それは、WSM(Wireless Scheduled Media)と呼ばれる「HCCA(Hybrid Coordination Function Controlled Channel Access)」方式を用いたものだ。

 このHCCA方式では、各端末からの送信許可要求を調停するHybrid Coordinator(以下、HC)を中央に配し、各端末はTraffic Specification(TSPEC)というパラメータにてHCに調停を願い出て送信権(TXOP:Transmission Opportunity)を取得するという形になる(図2)。

図2 図2●HCCAを使う場合のパケットの授受

 つまり、アクセスポイント(AP)にこのHCの役割を担わせ、そのAP配下の端末がこれから行おうとしている通信の平均的な消費帯域幅やパケットサイズ、また遅延許容値をAP(HC)に伝える(青矢印)。するとAP(HC)は、それぞれの特性を勘案した上で送信権(送信時間)を適時与える(赤矢印)。

 この送信権を得た端末(アプリケーション)だけが送信することができるため、パケットの衝突が起きないようになり、またAPという単一の装置が公平に判断した上で、リアルタイム系のパケットを優先させられるようになるというわけだ。

 このHCCA方式であれば、QoSがより確実に機能することは間違いない。しかし、これを実装したAPや端末は皆無である。2005年に雑誌の特集記事を執筆した時点でも筆者はこのHCCAが必要である旨を書いていたのだが、それから1年以上たった現在でもHCCAを実装した製品が登場していないばかりか、規格も定まっていないことは非常に残念である。

 また、先に説明したフレームバースティングを実装した非QoS対応装置が健在な中で、適切なQoSの利用は当面は難しいと言わざるを得ない。1日も早くWSMが登場し、それが一般に実装されることに期待したい。

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