企業の枠を超えたID利用で業務を効率化――IDコマース基盤検討会が実証実験

企業で運用方法の異なるIDの相互利用を目指し、IDコマース基盤検討会とJALが手荷物処理業務の効率化を検証する。

» 2007年02月01日 18時04分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 IDコマース基盤検討会は2月1日、日本航空と共同で航空手荷物業務の効率化をテーマにした「IDコマース基盤」の実証実験を開始した。実験成果を踏まえ、5月にも最終仕様書を公開する。

 IDコマース基盤は、ユビキタスサービスの実現を目的に、企業によって運用方法の異なるID情報やID管理システムを相互接続するためのプラットフォーム。物流や製造、サービス、医療などの分野で活用が期待され、例えば企業をまたがった輸送荷物の効率的な管理や製品ライフサイクル管理への応用、提携ポイントカードシステムのサービス強化などが想定される。

IDコマース基盤 どのようなID情報を相互利用するのかをポリシーとして規定したり、システム同士の接続認証を強固にすることでセキュリティが確保される

 検討会は、NTTデータと富士通、日本電気、日立製作所、東芝テックで構成され、2005年4月に組織された。ID情報の連携やシステム間の接続性、セキュリティなどについて、技術仕様やガイドラインの策定などを行っている。

 実証実験では、日本航空の「JAL手ぶらサービス」における業務効率化をテーマに、1)複数の企業・システムにまたがるID情報の流通、2)IDコマース基盤と既存の業務サービスとの連携、3)セキュリティを伴った端末管理の一元化について、約1カ月間にわたり検証を行う。

 JAL手ぶらサービスは、国際線利用者が自宅から航空手荷物を事前に発送することで、空港で手荷物を預ける手間を省き、到着地で荷物が受け取れるサービス。サービスには、宅配事業者や空港内の輸送事業者、JALなど複数の企業が参加しているが、1つの手荷物に各社が独自のIDを付与し、各社のシステムを連携させるのは難しいという。

手荷物チェックイン 現在の手荷物業務は、多くの確認作業や情報入力を人手に頼らなければならない

 例えば、手荷物を航空機へ積載する確認業務の場合、JALでは宅配伝票にある所有者の名前や住所などを担当者が目視して管理端末に情報を入力する。次に社内の予約システムと照合させて予約者の手荷物であることが確認できれば、重量なども確認し、最後に手荷物確認票(クレームタグ)を発行する業務フローをとっている。

 成田空港の場合、JAL手ぶらサービスで処理する荷物は1日に数百個にもなる。特に夏休みなど利用者の多いシーズンは、出発までの限られた時間で大量の荷物を処理する必要があり、担当者の負担が大きいという。

実験システム IDを読み取るだけで予約照合からクレームタグ発行までが自動的に行われ、処理時間がスピードアップするという

 実験に使用されるシステムは、手荷物を計量台に載せ、担当者が伝票のバーコードを読み取るだけで予約照合が行え、瞬時にクレームタグが発行される仕組み。実験には既存システムの応用の検証も含まれるため、紙の帳票でも利用しやすいバーコードによるシステム構成だが、RFIDを利用したシステムでも利用できるという。

 スーツケース1個の処理時間を比較したデモでは、従来の業務フローでは処理が完了するまでに1分半を要したものの、実験のシステムでは、わずか10秒ほどで完了した。「実際の処理時間は荷物の形状や重さで変わるが、かなりの効果が期待される」(JAL広報)という。

「セキュリティとIDを連携する仕組み、システムの接続性が課題」と話す松本氏

 実証実験について、NTTデータ技術開発本部の松本隆明本部長は「これまで企業間をまたがってのIDの利用は難しく、今回の実験を通じて複数企業をつなぐシームレスなサービスを実現したい」と話す。

 また、日本航空インターナショナルの扇山徹旅客グループ長は「職員の手作業はサービスの大きなボトルネックとなっており、この効率化に期待したい。また預けた荷物がどこにあるのかリアルタイムに確認できるなど、利用者にも新しいサービスを提供したい」としている。

 IDコマース基盤検討会は、実証実験の成果を取りまとめ、5月に公開予定の「機能ガイドライン」「技術仕様書」「実装規約仕様書」の最終版に反映させる。RFIDなどの標準化団体にも働きかけ、業界としてビジネス展開が可能な枠組み作りを目指すという。

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