Office 2007の新しいファイル形式――多彩なメリットの一方で互換性の問題も

いくつかのOfficeアプリケーションの最新バージョンでは、XMLベースの新しいファイル形式が採用されている。このため、ほかのアプリケーションからOfficeデータにアクセスしやすくなっているが、これら最新バージョンへの移行は面倒かもしれない。

» 2007年02月08日 15時00分 公開
[Rob Helm,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

 Office 2007のWord、Excel、PowerPoint、Accessでは、XMLベースの新しいファイル形式がデフォルトとして採用されている。このファイル形式は、ファイルサイズの削減や、セキュリティの向上、サードパーティーアプリケーションからOfficeデータへのより直接的なアクセスを可能にし、これらによってOffice 2007は、より強力なドキュメント管理クライアントとなっている。Office 2007はOfficeの既存のファイル形式をサポートし、Officeの従来バージョンはアドオンによって新しいファイル形式をサポートする。新しいファイル形式を使うためには、企業はOfficeの移行を慎重に計画し、選択したファイル形式を、社内標準にするとともに、ベンダーやパートナー、契約業者も含むすべてのユーザーが読めるようにしなければならない。

新しいファイル形式のメリット

 Word、Excel、PowerPoint、およびAccess 2007は、デフォルトではドキュメントを、(ZIPを使って)ドキュメントの内容とXML書式を含む圧縮パッケージとして保存する。このXMLベースの新しいファイル形式は、WordおよびExcel 2003でオプションとしてサポートされているXMLファイル形式と似たものだ。

 この新しいデフォルトファイル形式には、いくつかのメリットがある。

ファイルサイズの削減 XML形式では通常、バイナリ形式よりもファイルが大きくなるが、ファイルの圧縮率は高くなる。このため、Office XMLファイルは実際には、対応するバイナリファイルより大幅に小さい。一方、新ファイル形式の一部のファイルは、解凍とXML処理のオーバーヘッドのために、ロードするのに時間がかかる。大きなExcel XMLファイルは特にロードが遅いため、Microsoftは、大きなワークブックを迅速にロードできるようにすることを目的に、新しいExcel 2007バイナリファイル形式を開発した。

アプリケーション Office 2003(バイナリ) Office 2007(ZIP圧縮されたXML) サイズの縮小率
Excel 3.5Mバイト 1.7Mバイト 51%
PowerPoint 5.5Mバイト 4.5Mバイト 18%
ファイル形式ごとのファイルサイズの違い Office 2007のファイルは、同じファイルをOffice 2003で保存した場合より小さい。この表では、ExcelワークブックとPowerPointプレゼンテーションというOfficeの代表的な2種類のファイルについて、Office 2003とOffice 2007のデフォルト形式でのファイルサイズを示している。一般に、WordやExcelのドキュメントのようなテキスト主体のファイルが、Office 2007の新しいファイル形式における圧縮の恩恵を最も受ける

ウイルス感染の抑止 Office 2007のデフォルトファイル形式には、マクロなどの実行可能コードが含まれない。これにより、ウイルスなどの悪意あるコードがこの形式のOfficeファイルを介して感染を広げることが防止される。このため、企業は、OfficeファイルをWeb上で交換したり、電子メールの添付ファイルとして送信することを、より寛容に認めることができる。Office 2007は、マクロを含むことができる別のファイル形式もサポートしており、例えばWordは、DOCX形式(マクロを含まないドキュメント)とDOCM形式(マクロが利用可能なドキュメント)をサポートしている。管理者はこれらの形式の利用をグループポリシーで管理できる。

他のアプリケーションからOfficeデータへのアクセス 新しいファイル形式は、(XMLスキーマで)完全に文書化され、ロイヤリティフリーでライセンス提供されており、標準的なAPIやツールを使って解凍やアクセスができる。こうした操作はWindows以外のプラットフォーム上でも可能だ。さらに、新ファイル形式は拡張でき、Office XMLファイルには、開発者が定義したカスタムXMLスキーマに従ったアプリケーション固有のデータを含めることができる。これらの機能は、Officeファイルを扱うアプリケーション(例えば、人事データからWordで採用内定通知を生成するアプリケーションなど)の開発を容易にする。従来、そうしたアプリケーションを開発するには、開発者はアプリケーションにOfficeを組み込むか、Officeのバイナリ形式のリバースエンジニアリングを試みなければならなかった。だが、前者はサーバアプリケーションでは厄介だった。Officeをサーバ上で構成し、信頼性の高い動作を実現するのは難しかった(また、Officeは非Windowsサーバでは動作しなかった)ためだ。また、後者は、よほど腹を据えている開発者(例えば、Officeの競合製品の開発者など)以外にとっては、現実的ではない。

 なお、新形式のOffice 2007ファイルの大部分はXMLだが、ファイル内のすべてのデータがXMLとは限らない。例えば、画像や、埋め込まれたVisioダイアグラムなどのOLEオブジェクト、マクロ対応ファイル内のマクロコードは、圧縮ファイル内にバイナリ形式で格納される。このため、Officeファイルの一部は依然として開発者にとって透過的ではないが、ドキュメントの内容と書式はXMLとしてアクセスできる。

コンテンツ管理と公共セクターへの対応の向上

 新しいファイル形式の恩恵を最も受けるのは、ソリューションの一部としてOfficeを使用するソフトウェア開発者やインテグレーターだろう。Office XML形式は文書化されており、標準的なAPIやツールを通じてアクセスできるため、Office以外のアプリケーションが、ユーザーの入力に応じてドキュメントを生成したり、CRMシステムのようなビジネスアプリケーションのドキュメントからデータを抽出したりといった処理を行えるからだ。Microsoft自身も恩恵を受けると見られる。同社のビジネスアプリケーション(Dynamics CRMなど)が新しいファイル形式を利用して、Office ドキュメントから情報を抽出したり、それらに注釈を付けたりできるようになる可能性がある。

 また、新しいファイル形式は、Microsoftが公共セクターにおけるOfficeの地位を守るのに役立ちそうだ。一部の政府機関や専門家は、公文書にOfficeドキュメントを使用することに反対している。OfficeドキュメントはMicrosoft製品からしかアクセスできないというのがその論拠だ。この議論に基づいて、Sun MicrosystemsのStarOfficeスイート(および、これをベースとするOpenOffice.orgスイート)を推す動きもある。これらの製品は、Office 2007の新ファイル形式と似たXML形式を採用しており、そのサブセットは、OpenDocumentとして国際標準化機構(ISO)で標準化されている。これを受け、MicrosoftはOffice XML形式のスキーマをロイヤリティフリーで提供するとともに、標準化団体のEcma Internationalに提出し、2006年12月にEcma標準として承認された。EcmaはこれまでにJavaScriptや、Microsoftの.NET技術の一部を標準化した団体だ。さらにMicrosoftは、Office形式とOpenDocumentを相互に変換するユーティリティの開発も支援している。こうした動きは、公文書でのOfficeドキュメントの使用に反対する議論をある程度沈静化させている。

新ファイル形式について

 Officeのファイル形式が変更されたのは今回が初めてではなく、過去の経緯から見て、移行には注意が必要だ。多くの企業が、Office 95とOffice 97の最初のリリース、あるいはAccess 2000とAccess 2002/2003の間の非互換性の問題に悩まされた。Office 2007に移行する企業は、当初はOfficeの既存ファイル形式を使用し続け、時間をかけてOffice 2007形式に移行することになるだろう。

既存形式のサポート Office 2007は、Officeの従来のファイル形式を読み書きできる。このため、企業は既存ファイルに変更を加えることなく、Office 2007にアップグレードできる。このことは、まだ従来バージョンを使っているパートナーや顧客とOfficeドキュメントをやり取りする企業にとって重要だ。また、一部の企業は、社内のコンピュータに新旧のバージョンが混在するOffice 2007への移行期に、既存のファイル形式の使用を強制するかもしれない。

 Officeの既存ファイル形式の使用を強制するために管理者が利用できる主なツールは2つある。

  • Office 2007の導入カスタマイズツール:Officeのインストール時に新しいファイル形式を無効にしたり、既存の形式をデフォルトにしたりできる。
  • グループポリシー:インストール後にユーザーが新しいファイル形式を有効にしたり、それらをデフォルトにしたりするのを防ぐことができる。

 しかし、Office 2007で既存のファイル形式を使用すると、互換性の問題に直面する恐れがある。

Office 2007の新機能が利用できない Office 2007は、既存のファイル形式ではサポートされない機能を備えている。例えば、Excel 2003では最大行数が6万5536行だが、それより格段に多くの行を使用できるExcelワークシートや、SmartArtグラフィック(テキストから自動生成されるグラフィック)などだ。これらの機能の互換性の問題を回避するため、Office 2007は通常、既存ファイル形式の使用時には互換モードで動作する。互換モードでは、6万5536行を超えるExcelワークシートの作成など、Officeの従来バージョンではサポートできない機能が無効になる。また、互換モードでは、ドキュメントのコンポーネントが自動的に変換され、変換によってドキュメントの外観や動作が変わる場合には、ユーザーに警告する。例えば、互換モードでは、SmartArtグラフィックがビットマップ画像に変換される。さらに、Office 2007の「互換性チェック」コマンドでは、ユーザーはOffice 2007ドキュメントのパーツの中で、既存のファイル形式に適切に変換されない恐れがあるものを特定できる。

Office 2007は既存機能の一部をサポートしない Office 2007は、Officeの従来バージョンの一部の機能を備えていないため、従来バージョンで作成されたOfficeファイルの一部については、完全にはサポートできない。例えば、Word 2007は、ドキュメントの複数のバージョンを含むWordファイルを開けない。こうしたファイルを扱う機能は、Word 2007以前のWordでは提供されていた。企業が既存ファイルとの互換性の問題を特定できるように支援するため、MicrosoftはツールとドキュメントをまとめたOffice Migration Planning Managerというパッケージを作成中だ。このパッケージに含まれるドキュメントでは、Officeのバージョン間で変更された機能が説明され、Office 2007の潜在的な互換性の問題が示されている。また、このパッケージでは、企業ネットワーク上のOfficeファイルを検索し、問題があるファイルについて報告するファイルスキャン/リポートツールが提供される。Migration Planning Managerは2006年11月にβ版がリリースされており、2007年1月に予定されているOffice 2007の一般向け発売に合わせて完成する見込みだ。

新しいファイル形式への移行

 Office 2007のファイル形式に移行する企業は、いくつかの方法で移行を簡素化できる。

Officeの従来バージョンを新ファイル形式に対応できるように更新する 互換機能パックという無料のパッチを導入すれば、Office 2000、Office XP、Office 2003は、一部のOffice 2007形式のドキュメントを読み書きできる。ただし、このパッチを導入しても、Officeの従来バージョンはOffice 2007のすべての機能(大きなExcelスプレッドシートなど)をサポートできるわけではない。SmartArtグラフィックなど、Office 2007の一部の機能は、パッチを導入したOfficeの従来バージョンで実行し、後でOffice 2007で実行しても、整合性のある結果が得られる。例えば、SmartArtグラフィックを含むファイルは、Office 2007で作成し、Office 2003でロードして保存し、Office 2007で再び編集することができ、これらの操作を行っても、SmartArtグラフィックの動作は変わらない。しかし、Office 2007のすべての機能がこのように動作するわけではない。このため、Office 2007ユーザーは、作成したファイルをOfficeの従来バージョンで操作しても支障がないようにするため、互換モードと互換性チェックコマンドを利用しなければならない。なお、互換機能パックは、Accessには対応しておらず、Word、Excel、PowerPointにのみ対応している。現在はβ版が提供されており、2007年1月に正式版がリリースされる予定だ。

Migration Planning Managerでファイルを変換する Migration Planning Managerには、既存のOffice形式のファイルを、対応するOffice 2007形式にバルクコピーして変換するコマンドラインツールが含まれている。前述したように、既存ファイルの一部は、Office 2007で削除された機能を使用しているため、新しい形式に完全には変換されない。だが、Migration Planning Managerには、最悪の問題を軽減するツールが含まれている。例えば、このツールは、ドキュメントの複数バージョンを含むWordファイルを、各バージョンごとに別々のファイルに分割できる。

漸進的な移行

 一般に、ほとんどの企業は新旧のOffice形式をしばらくの間併用しなければならないだろう。Officeドキュメントを外部のベンダーやパートナー、顧客とやり取りする企業は、Officeをアップグレードしていない相手や、既存の形式を使い続けている相手に、既存形式のファイルを送信しなければならない場合がある。また、Officeをアップグレードして新形式に移行した相手から受信した新形式のファイルを、読んだり編集したりする必要がある場合もある。

 結論としては、Office 2007に移行する企業は、ネットワークの相互運用性に関する古い格言に従うべきだろう。それは、「送るときは保守的に、受け取るときは寛容に」というものだ。Officeファイルに当てはめると、できるだけ既存のOffice形式で新しいドキュメントを作成し、既存形式でサポートされていないOffice 2007の新機能の利用を制限する一方で、すべてのコンピュータが新形式の受信ドキュメントを処理できるようにしておくべきということになる。

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