第4回 コーチングと剣の極意の意外な共通点現場で使えるコーチング術

コーチングのスキルは非常にシンプルなものである。要するに、相手からの答えを導く方法論に過ぎないのだから。今回は、実際のスキルを身につける方法の手助けとなるポイントを2つ挙げよう。

» 2007年03月20日 20時00分 公開
[杉浦麻耶,ITmedia]

 前回まではコーチングの概要について説明してきたが、今回からは実際のスキルを身につける方法を紹介していく。会社の部下やプライベートのコミュニケーションにコーチングを活用するには、まず使いこなす術を自分で理解しておく必要がある。

コーチングと剣の極意の意外な共通点

 コーチングを行う際、なんとしても避けたいのはコーチであるはずの自分が一方的に話してしまうこと。ボス型のマネジメントなどではこれが顕著に見られる。こうしたケースでは、指示や命令といった一方通行のコミュニケーションで相手を動かそうとします。そして多くの場合、相手の自主性などはないがしろにされてしまう。

 コーチングスキルに必要なのは「相手の話をきちんと聞き、相手の中から答えを引き出す」ことだが、これは剣術で言えば「後の先」とでも言えるもので、簡単なように見えて実は難しい。コーチングでは、あなたが知っている知識や情報を相手に与える必要はない。コーチがすべきなのは、相手が持っている情報をうまく整理整頓し、思考の流れをスムーズにしてあげることである。

 では、「後の先」を取るためにはどうすればいいか。そのポイントとなるのは、相手が何か発言したとき「ちょっとした言葉を返すこと」である。相づちと言ってもいいかもしれない。例えば、「この企画の趣旨はxxです」と一言で部下が簡潔に終わらせてしまったとしても、あなたが、「それはおもしろいアイデアだね」と答えれば相手は何かしらの反応をせざるを得ない。逆に、たくさん掘り下げるための質問を用意していても、無言だったり「えぇ」「そうだね」とその場しのぎの「とりあえず返事」では話す方のテンションは下がってしまう。「後の先」を取るためには、相手のどんな言葉でも確実に受け止められるだけの広い視野と、効果的な返答を瞬時に組み立てるだけの集中力が必要となるのだ。

 こんな経験はないだろうか? あなたが上司から質問を受けているとき、自分としては言いたいことが山ほどあり的確な答えを言っているはずなのに、上司は「そうか」「いいんじゃない」「で?」としか反応しない。そのうちだんだんとあなたも煮え切らなくなってきて、最終的には話す気をなくしてしまう。人の意識は受け答え方1つで大きく変化するのだ。

 ただ、相づちは最低限のコミュニケーションスキルである。一歩進んだコミュニケーションスキルとしては、相手の言葉を「反復」、つまりオウム返しすると効果的である。反復の技法については、コーチングに限らず、カウンセリングなどでも用いられることがあるが、これを実践しようとすると、とたんにボロが出やすいものであることも知っておきたい。オウム返しなのだから、一歩間違えれば、相手によっては馬鹿にされたような印象を持つ可能性もある。このため、反復はあまり多用せず、相手が問題解決につながる言葉を発した際に用いる程度にしておく方が効果的であることは付け加えておきたい。

 さらに上級者は、声の大きさ、目線、間のタイミング、トーン、表情などで、例えば同じ「そうなんですか」でも、幾通りもの表現を可能にする。これは「ペーシング」と呼ばれることもあるが、相手に合わせて声の大きさや調子、スピードなどを変化させることで、相手との安心感を築くスキルである。

 いずれにせよ、受け答えのストックを会話術にしのばせておくことは、コーチングにおいて必要なスキルである。会話にならないちょっとした受け答えは、相手の中の答えを見つけるコーチングでは重要なベースとなる。相手がしゃべりやすいように、そしてたくさんの話をきけるように意識したい。

自分を客観的にとらえてみる

 人は誰しも、物事を自分の視点で考えがちである。「部下のA君が行っているあの企画は、いかがなものか」「上司はわたしたち部下のことをきちんと考えているように思えない」など。こうした言葉の背景にあるのは、「わたし」という存在を中心とした考えである。あなたが他人に向けて発している言葉は、実はあなた自身に当てはまることであるケースは珍しくない。

 これを意識するには、自分が発したいメッセージを客観的に確認することが重要である。実際には、相手に対して行う質問をまずは自分にしてみればよい。内容やとらえ方を改めて明確にできるだけでなく、相手がどう感じるかを認識することで新たな道が見えてくる。

 答えを導くはずのコーチが、自分の基準で物事を見てしまっていては、いつまでたっても相手の気持ちは引き出せない。相手の立場や感情をくみとって、導き、勇気を起こさせ、やる気を起こさせていこう。

 コーチングスキルとはシンプルなものである。要するに、相手からの答えを導く方法論に過ぎないのだから。今回解説した2つのスキルをまずは習得し、コーチングの達人への一歩を踏み出してほしい。

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