第2回 ポケットベル成長の舞台裏緊急特集「さらばポケベル」(2/2 ページ)

» 2007年03月27日 07時30分 公開
[村田嘉利,ITmedia]
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競争が生み出す端末とサービスの進化

 数字を表示できる端末が発売された1年後(1988年)には、ペン形状をした数字表示端末が発売され、その次にはカード型端末へと形状の多様化が進んだ。1992年には腕時計型端末、その中身をそっくり利用したペンダント型端末も発売されている。

 利用目的もビジネスだけでなく、個人の利用が増えていく。それと平行して送信できる文字の種類も多様化し、1991年2月には仮名・英文字に加えて、漢字まじりの定型文、イラストまでも送ることができる、極めて高機能な端末が発売された。これに対応して自由文サービスも始まっている。1996年にはインターネットからポケベルにメールを送ることができるようになり、まさに競争市場がサービスの進化を加速させたといえる。

サンフランシスコ湾岸エリアを中心にサービス展開していた無線によるインターネットシステム「リコシェット」(既にサービス停止)を利用してインターネット経由でポケベルにメールを送信

 競争環境がポケットベルのシステムやサービスの進化を促進させたということが、ケータイ市場でも同様に起きている。凄まじい開発競争が繰り返され、半年に1度のペースでモデルチェンジが繰り返され、その度に新たな機能が追加されているのはご存知の通りだ。

 1995年にはNTTが端末のデザインまで規定していた状況から、各メーカーが端末の形状をNTTへ提案する方式に切り替わり、「ベル友」ブームと呼応する形で百花繚乱のごとく各種形状のポケットベル端末が販売されていった。

 これによって市場が拡大するポジティブスパイラルが起き、利用者の中心は完全に個人へと移っていった。現在のケータイ市場は、まさにこの状態だといえる。なお、日本でみられたようなベル友ブームのような現象が米国では起きたとは聞いたことがない。当然だが、爆発的な市場拡大も起きなかった。ビジネス市場を中心に安定して成長し、携帯電話との併用が長らく続いていた。

 他の市場と同様に、ポケットベル市場でもケータイ市場でも「競争」が市場拡大をもたらすターボエンジンとなったことは間違いない。ただし、常に競争が市場拡大を推進するかについては疑問がある。市場がほとんど形成されていない状況で、新しい商品やサービスによって競争が起きると、競争が市場を食い散らしてしまうことが往々に起きる。

 個人的な意見だが、市場の成長度合いや技術進歩の度合いを見計らって、競争状態を作り出すのが良いように思う。結果論だが、ポケットベルもケータイもいろいろな要素がうまくマッチして、市場がポジティブスパイラルに入り、急成長していったといえる。

 次回は、ポケットベルが創造したメッセージ文化に焦点を当ててみたい。

村田嘉利

岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授。1979年〜2006年、NTTおよびNTTドコモにて移動通信技術やコンテンツ、マルチメディアサービスの開発に従事。2006年7月より現職。


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