では、なぜ過去にさかのぼった検索が必要なのか? その大きな理由は、あるキーワードについて、昔のランキングに存在したある情報を探したいと思っていても、ビジネス環境に大きな変化があり、現在のランキングでは価値が下落し、上位にヒットしない場合があるからだという。企業では、このような昔の状況での検索環境へと戻る必要性が生じる場合が多い。
例えば、現在「はんだ・トラブル」というキーワードで検索すると、RoHS(*1)指令への対応や、亜鉛ウイスカ(*2)などの問題により、「鉛フリーはんだ」の話題がクローズアップされる。
しかし、2000年に製造した製品に関するはんだの問題を調査すると、当時はまだ鉛フリーはんだは存在せず、知りたいことと検索結果に食い違いが生じる。そこで、タイムトラベル検索で2000年時点での検索をすると、鉛フリーはんだは完全に排除されて、目的とする情報が探しやすくなるというわけだ。
このように、企業内では製品名も変わるし、分野自体も市場に合わせて変わっていく。ある大きなイベントがあると、それを境に見方がガラリと変わり、それまでの過去が隠ぺいされてしまう。最近のコンプライアンス問題や製造物責任法(PL法)、改正消費生活用製品安全法など、過去の情報に対しても責任を持って保管する要求が高まりつつある中で、時間の流れとともにビジネスが変化することに注目することは、より重要となるだろう。
「エンタープライズサーチは、最終的にはコスト削減や利益創出に結びつくものでなくてはならない。さらに言えば、企業として社会的責任を全うするためのものでもある」と梶木氏。エンタープライズサーチを単に便利な検索エンジンととらえるのではなく、財務報告の真正性の確保やコンプライアンスの徹底などから、エンタープライズサーチ市場も一気に広がる可能性はあるという。
NECは医療向け電子カルテシステムや製造業向け図面管理システムなどにおいて、業種・業務特化型の検索技術を20種以上も開発してきた。その上で菊地氏は、「今後も当研究所はこのような検索技術に注力していく。タイムトラベル検索は1年ほどかけてブラッシュアップし、その後広く事業部へ働きかける計画だ」と語る。
*1 RoHS(Restriction of Hazardous Substances):電気・電子機器における危険物質の使用制限のこと。融点の高い鉛フリーはんだを推奨するために、機器やはんだ槽にさまざまな問題が起こっている。
*2 ウイスカ:メッキ皮膜に発生するヒゲ状の金属結晶のこと。配線の短絡などの原因として20年前に問題化。鉛フリーハンダの登場で問題が再燃した。
- NEC、効率的な情報検索システムを開発
- 「あやふや地名」検索を実現したマピオンモバイル
ケータイ版「マピオン」に登場した新サービス「乗換&ナビ」は、出発地と目的地をフリーワードで入力するだけの手軽なインタフェースが特徴だという。実は、それをハイエンドのエンタープライズサーチエンジンが支えている。
- 企業内検索に不満を抱くユーザーの「盲点」
重要な情報の発見などで期待されるエンタープライズサーチだが、検索範囲や精度に不満を持つユーザーが実に7割も存在するという。検索エンジンとユーザーの認識との間に生じた食い違いとは?
- エンタープライズ2.0で柔らかい知識共有が始まる
企業がWeb 2.0を取り込むようになると、ネット上でブログやSNSが普及したように、企業内でもボトムアップのコンテンツが急増していく。それを集合知として分析し、企業価値に結び付けるのがエンタープライズサーチの役割だ。
- ツールだけじゃムリ? 90万のファイル検索を実現した東京ガス
厳しくなる経営環境に対応すべくKMに取り組んできた東京ガス。同社が膨大な数の電子ファイル、さらには紙文書の情報共有を実現するツールとして着目したのがエンタープライズサーチだった。
- エンタープライズサーチで情報共有――アシストの場合
情報共有を通じて競争力を高めたい――こう考える企業は数多い。アシストでは、SFAやポータルサイト、ファイル共有などで情報共有を試みたが、どの手法も社員に定着しなかったという。
- 膨大なDBを抱えるNotesユーザーからの「SOS」
エンタープライズサーチの効用の陰であまり語られないのが、Lotus Notes内における情報検索の困難さだ。Lotus対応をうたいつつも、まったく使い物にならないサーチエンジンも多いという。この避けられない課題に、企業はどう対処するのか。
- サーチの「条件」 企業の戦略、論理を結果に反映できるか
検索結果はベンダー任せにしない――。今後のエンタープライズサーチは、検索過程を可視化して、企業の論理を検索に反映させるソリューションが主流になるかもしれない。
- 情報共有の活性化を阻む8つの落とし穴
文書管理システムやKMの利用が形骸化する中、簡単に文書公開できるツールと高速な検索エンジンが連携する、エンタープライズサーチ(企業内情報検索)に初めてトライする企業向きのソリューションが登場している。まずは使ってもらい、次第に情報共有の文化を育てていくのも有効な方法だ。
- エンタープライズサーチが必須となる理由
エンタープライズサーチが、業務の効率化や生産性向上のためのツールとして注目されている。専業ベンダーだけではなく、業務ソフトやシステムベンダーがこぞって参戦し、市場は加熱する一方。このソリューションがなぜ注目され、また企業になくてはならなくなるのか。2回にわたり探っていく。
- 【特集】よく効くエンタープライズサーチの処方箋
企業内に蓄積された膨大なデータの中から複雑な条件で目的の情報を拾い出すエンタープライズサーチがいま、注目を集めている。本特集は、その最新動向や導入事例を交え、企業の情報検索における課題を明らかにしていく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.