Red Hat Enterprise Linux 5投入と“リポジショニング”――日本市場への取り組みRed Hatの新展開

Red Hatは3月15日に“Red Hat Enterprise Linux 5”を全世界同時に発表したが、日本国内での公式な発表は、4月18日に予定されている同社のイベント「東京レッドハット會議」の場で行なわれる予定である。ここでは、APACでの発表の場で聞くことができた日本市場への取り組みの方針について紹介する。

» 2007年03月30日 12時00分 公開
[渡邉利和,ITmedia]

日本市場の現状

 Red Hatの日本市場の認識を簡単にまとめると、有望な市場だがまだ未開拓の余地が大きい、ということになる。同社のスコット・クレンショウ氏は日本について、「有望な市場であり、企業や政府官公庁はオープンソースの技術革新がもたらす価値に気づいている。日本ではOEMパートナー(サーバベンダー)との協力関係を通じて市場を開拓し、大きな成功を収めている。Linuxの需要に関する予測や評価はさまざまだが、少なくとも今後も大きな成長余地が存在していることは明らかだ」としている。さらに、Red Hat Asia Pacificのゲーリー・メッサー氏は、「日本のOEMベンダーとして、富士通、日立、NEC、日本IBM、日本HPなどが挙げられるが、Red Hatはこうしたパートナーと良好な関係を維持しており、市場動向を先取りした取り組みを共同で進めている。パートナーとは率直な話し合いができる関係を築いており、有意義な示唆をもらうことも多い。OEMベンダーはオープンソース、そしてLinuxやJBossの価値を正しく認識している。パートナー向けの取り組みに関しても新しい発表を行なっており、今後日本でもパートナーとの協業をさらに深める取り組みを行なっていく」と語っている。

 また、日本市場ではシステムインテグレーターが重要な存在であることも認識しており、システムインテグレーター向けの施策も強化する意向を表明している。

 さらに同氏はAPACを統括する立場から、「各地域ごとにLinuxの受容レベルには違いがあるが、だからといって取り組みのやり方が変わってくるというものでもない。日本市場の動向がシンガポールやオーストラリアと違うのであれば、日本のユーザーとの対話を通じて何がどう違うのか、成熟度の違いなのか法制度や商慣習の違いなのか、といった点を理解していくことが重要だ。今回はアジア太平洋地域向けという形で大きな製品発表を開催したが、これを受けて各国はそれぞれで何にどう取り組みんでいくかを練り込んでいく必要がある。日本でも、日本にふさわしい形でRed Hat Enterprise Linux 5の普及に取り組みんでいく」とし、日本の事情にあった取り組みを展開することを示唆している。

 さらに、日本市場を直接担当するレッドハットの代表取締役社長、藤田祐治氏は、「日本市場は、Red Hat全体の中でも大きな部分を占める重要な市場だ。そのためもあって日本市場への取り組みは全社レベルでも期待が大きく、日本向けの投資額も戦略的に増加している。その表われとして、優秀な人材の確保も行なった。今後さらにOEMベンダーとの協力体制を深め、市場開拓に取り組みんでいく」としている。

左からレッドハット代表取締役社長藤田祐治氏、、Red Hat Asia Pacificのゲーリー・メッサー氏、Red HatでEnterprise Linux Platform Businessのバイスプレジデントを務めるスコット・クレンショウ氏

UNIXを追う

 レッドハットは、以前サン・マイクロシステムズでSolarisなどのソフトウェア製品のプロダクト・マーケティングなどを担当していた纐纈昌嗣氏が同社のマーケティング・パートナービジネス本部長に就任したことを2月2日付けで公式発表している。日本国内でのUNIXビジネスに深くかかわっていた同氏に、“サンとSolarisをよく知る立場から見たRed Hatの現状”を聞いた。

 同氏によると、「かつてサンが盛んにアピールしていたのと同じメッセージが、オープンソースの会社から出てくるようになった、という点が最大のポイント」だと話す。UNIXが初期にはメインフレーマーから玩具扱いされていたところから出発し、現在ではエンタープライズ市場でミッションクリティカルな処理の多くを担うまでになったことを踏まえ、“オープンソースの会社”であるRed HatがかつてのUNIXと同じ道を歩み始めたことを意味している。

 「コストを下げ、複雑性を低減しつつ、投資効果を高めるというあたりはまったく同じメッセージだ。もちろん、まだ小さな会社だし、サンほどしっかりできているわけではない部分も残ってはいるが、オープンソースはあらゆる面で急速に進歩するものであり、改善は早いだろう」

 「製品に関しては、仮想化やクラスターリングなど、ミッションクリティカル系をカバーするエディションとしてAdvanced Platformを設定しており、現状UNIXシステムが対応している業務分野のかなりの部分はLinuxでカバーできるようになった」

といったメッセージからは、Linuxが「UNIXの安価な代用品」ではなく、事実上同等の機能を備え、同じように利用できる対等の選択肢になりつつあることが伺える。

 従来のLinuxはWebフロントでの比較的負担が軽く、システムダウンの影響も限定的なサーバでの利用が中心だったが、Red Hatでは今後エンタープライズユーザーが中核的なアプリケーションサーバとして利用することを想定し、機能強化や品質改善に取り組みんでいる。その1つの表われが、JBossの買収だといえる。ユーザーから一定の支持を得たJBossをプラットフォームの一部として取り込むことで、アプリケーションサーバとして利用する場合も必須コンポーネントに関してはRed Hatが完全にサポートできる体制ができたことになり、ユーザーから見た場合の“寄せ集め”感は軽減されることになる。

 日本ではサーバベンダー各社を通じた間接販売が主体であり、かつシステム構築にはSIの担う役割が大きいため、単純にすべてをRed Hatが前面に出て実行すればよいというわけにはいかないが、本社レベルでも日本市場重視の姿勢が打ち出されており、戦略的な投資対象となっていることからも、今後の日本市場への取り組みは従来とは異なるものになっていくことが期待できるだろう。

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