さて、わたし自身のことも話しておきましょう。ノートPC派のわたしは、和田教授のような「一生もののキーボード」というわけにはいきません。
それでもキー配列に対するこだわりはあって、まずアルファベット入力には、日本語キーボード(いわゆるJIS配列)を英語配列(いわゆるASCII配列)で使っています。これは「A」の段で「Enter」の隣にあるキーの数が気になるからです。英語キーボードでは、ここにキーがないため「`」キーが変なところにさまよっている*のが気に入りません。また、JIS配列では「[」と「]」が縦に並ぶのも不満です。「(」と「)」はちゃんと横に並んでいるのに。わたしがASCII配列を好むのは、最初に就職した会社で使ったソニーのワークステーション(NEWS)のキーボードが、この「ASCII配列だがEnterの横にキーが多い」タイプだったことが原因の1つかもしれません。
キー配列のこだわりはもう少しあって、実は日本語入力用のキー配列に独自のものを定義しています(図2)。わたしはこの配列を「きゅうり改」と呼んでいます。
「きゅうり改」は左手が子音、右手が母音となるキー配列です。例えば、「G」のキー(実際にはアルファベットのQキー)を押してから「U」のキー(アルファベットのJキー)を押すと「ぐ」が入力されます。基本的に左手と右手が交互に動くので、リズム良く入力できます。
「きゃ」のように拗音(ようおん)を含む文字は、子音キーの後に「ゃ」キーのような拗音(ようおん)キーを打ちます。それ以外の小文字は「小」キーを使い、
「H」「小」「A」→「ふぁ」
というように入力します。ローマ字入力であいまいになりやすい「ん」と「っ」は独立したキーが割り当てているので、「な行」と「ん」が交ざってしまったとか、「っ」で終わる文章が打ちにくいとかいう問題とも無縁です。
日本語変換システムとしてCannaを使用している方は、わたしの使っているkpdefファイルを利用することにより、「きゅうり改」を試してみることができます。kpdefファイルはこちらからダウンロードしてください(編注:2007年4月24日現在、ファイルにアクセスできない。詳しくはこちらを参照)。
Canna付属のmkromdicを使って、kyuri.kpdefファイルからローマ字かな変換テーブル(ドットで始まる名前のファイル)を作ってください。後は、その変換テーブルをホームディレクトリに置き、.cannaファイルに、
(setq romkana-table "<変換テーブル名>")
という行を追加すると、「きゅうり改」が使えるようになります。<変換テーブル名>の部分は、作成したローマ字かな変換テーブルのファイル名にしてくださいね。
「きゅうり改」は完全にわたしのオリジナルのアイデアというわけではなく、もともと狩野宏樹さんが1991年に作成された「きゅうり*」という配列に触発されて誕生しました。確か1992年ごろだったと思うのですが、キー配列のカスタマイズに凝っていたわたしは、日本語入力に「きゅうり」を使おうというアイデアに取りつかれました。しかし、実際に使ってみるとちょっと使いにくいところがあったので、自分の指の癖に合わせて打ちにくいキーを移動したり、拗音(ようおん)の連続で「ゃあ」、「ょう」、「ゅう」などを入力できるような改善を行い、「きゅうり改」が誕生しました。
日本語入力の配列をまったく新しいものにするのには少々勇気が必要でしたが、やってみたら3日で慣れました。プログラマーといってもプログラムばかり書いているわけではなく、ドキュメント書きやメール書きなど、日本語を入力する割合の方がはるかに多いので、日本語入力の効率は非常に重要です。「きゅうり改」はわたしの生産性を高めてくれています。
このように手になじむ道具の追求は、ハッカーの特質の1つです。皆さんも身の回りのツールの使い勝手を極めてみませんか。ハッカーの気持ちが分かるかもしれません。
英語キーボードでは、「`」キーの位置が「1」の横とか右手側一番下の段など、製品ごとに異なる。悪い冗談としか思えない。
オリジナルの「きゅうり」の情報は、狩野さんのページから入手可能。
本記事は、オープンソースマガジン2005年5月号「まつもとゆきひろのハッカーズライフ」を再構成したものです。
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