「報告のための報告」が飛び交う組織の実態企業にはびこる間違いだらけのIT経営:第28回(1/2 ページ)

業務の報告が「形式主義」に陥ると「報告のための報告」が生まれる。多くのスタッフが無駄な時間をとられ、疲弊していくのを防ぐ基本は「現認主義」の考え方だ。

» 2007年05月23日 17時16分 公開
[増岡直二郎,アイティセレクト編集部]

 企業のトップ・経営者の多くは、部下からの業務報告を定期的に欲しがるものだ。ちょっとピントの外れたやる気満々の経営者ほど、あるいは能力のない経営者ほど欲しがるものだ。一方で、彼らの多くは本来活用すべきITにほとんど興味を示さない。

 一般管理者は、部下が身近にいるから定期的報告は不要な筈だが、上から報告を要求されるのを真似て部下に要求する。この場合もピントが外れ、能力に疑問があることが多い。これらは部下の業務をディスターブする上に、都合の良い情報しか入らないため判断を誤ることが往々にしてあるから問題なのだ。

 報告のための報告が横行する企業は、やがて疲弊する。そんな無駄なことは即刻止めるべきだ。そしてITを正しく活用してもらいたい。

事業部長の「雄たけび」にしらける部下たち

 いかに現場では無駄な業務報告が強制されているか、筆者の実務経験やコンサルタント経験から、実態を概観しよう。まず、業務報告をする側の実態の例である。

 筆者が大企業A社の某事業部を訪ねたとき、たまたまB事業部長が事業部長室から出てきて事務室フロアに向かって大声で叫び出した。「おーいっ、週報のネタはないかあー」。事務室には、しらけた雰囲気が漂った。筆者の近くにいた男性が皮肉っぽく小声で呟く。「Bは大体毎週、事業部長の面子をかなぐり捨ててああして叫んでますよ。報告する方も大変だけど、報告される方もあんな報告をまともに受け取ってるんですかねえ、まったく」。

 中堅企業E社の社長は、毎週金曜日朝8時から「早朝連絡会議」と銘打って本社部長十数名を役員会議室に集めて、1週間のでき事と来週の予定を報告させる。部長連中は、木曜日から準備のために時間を取られ、気も重い。できるだけ好印象を持たれる報告や波風の立たないような差し障りのない報告をするためのテーマ探しに、大いに苦労している。

 中堅企業F社で情報機器を生産する某工場の事業所長は、G管掌役員に毎週提出する報告書を手書きでメモして秘書に渡し、秘書がワープロソフトで打ってから本社へ送信する。情報機器を生産する事業所の最高責任者が……である。

 ほとんどが同じような報告をさらに部下に求めるから、全社が各部署で飛び交う報告で右往左往させられる。

 一方、業務報告をさせる側の実態である。A社トップは、週報をプリントしたもので提出させる週報が膨大な量なので、移動中や自宅で眼を通すためである。必ず必返信はするが、「拝承」が多い。まれにコメントを記入するが、小文字で乱筆なので判読しにくい。返信を受けた当事者は、社長の筆跡に慣れた社長秘書室にFAXをしながら電話をして、読み方を教えてもらう。内容は叱責か尻叩きが多く、まれに激励もあるが、それだけのことである。

 E社の早朝連絡会議では、社長が部長報告に末梢的な質問を絶えずぶつける。業務を遂行するために必要とする人や金、時間などの問題提起や議論、社長決済などは何一つない。

 F社の社内の噂によると、G管掌役員は配下の事業所長ら部下から提出される週報をもとに役員会などで発言をし、いかに自分は現場の実態を把握しているかを誇示するという。

 いずれも、実に馬鹿げた話ではないか。

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