携帯電話の父が語るワイヤレスサービスの未来像(1/2 ページ)

3GやWiMAXなどの登場でワイヤレスにもブロードバンドが押し寄せる。ユーザーや通信事業者に利益をもたらすワイヤレスサービスとは何か?携帯電話の父と知られるマーティン・クーパー氏に聞いた。

» 2007年06月13日 07時30分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 第3世代携帯電話の高速化やWiMAX、次世代PHSなど、ワイヤレスの世界に本格的なブロードバンド時代が到来し始めた。だがワイヤレスの高速化は限りある資源の電波周波数を必要とする。国内の電波周波数がひっ迫する中、ユーザーや通信事業が利益を享受できるワイヤレスサービスのあり方とは何か?米ArrayCommのマーティン・クーパー会長に聞いた。

クーパー会長は、1973年に米Motorolaで世界初の商用携帯電話機の開発を手がけた「携帯電話の父親」として知られる。Motorola退社後は無線通信の制御技術を手がけるArrayCommを創業し、ユーザーサイドに立った無線のユビキタス化を提唱している

ITmedia ワイヤレスブロードバンドにはさまざまな規格が登場し、2008年から順次商用サービスが始まります。現在のワイヤレスサービスの動向をどのように見ていますか。

クーパー会長 今のワイヤレス世界の変化は、技術にフォーカスするのではなく、ユーザーがどのようなサービスを利用できるのかという点に着目すべきです。ブロードバンドのユビキタスな環境を得ているユーザーはほんの一握りにすぎません。ユーザーが求める使い方通信技術の関係をしっかりと見つめる必要があるでしょう。

 ワイヤレス技術に課せられた課題とは、ブロードバンド化と安価なサービスの実現です。この2つが揃うことによって、初めてユビキタスが目に見える形で実現すると私は信じています。残念ながら、今のユビキタスサービスで実現しているのは、BlackBerryのようなスマートフォンでメールやスケジュールなどの個人情報へのアクセスするくらいでしょう。

 しかし、ワイヤレスブロードバンドによるユビキタスサービスの利用はますます拡大し、ユーザーが移動しながらさまざまな情報にアクセスする社会になります。ウルトラモバイルPC(UMPC)のようなとても小さなデバイスが登場すれば、ユーザーはユビキタスサービスを頻繁に利用するようになるでしょう。

 こうなると電波の周波数を今以上に必要としますが、多くのワイヤレスシステムは広帯域を利用したり、ユビキタスサービスを効率的に提供する仕組みになっていません。この課題を解決するために新しい技術やアプローチが求められています。

ITmedia 具体策とは?

クーパー会長 そこで私たちは「MAS(Multi Antenna Signal procesing)」を提案します。ITmedia読者の中には、「MIMO」や「スマートアンテナ」「アンテナアレイ」といった言葉を聞いたことあると方がいると思いますが、これらの技術はMASを活用したものです。MASは決して新しく技術ではなく、電波周波数を有効利用する技術として、その思想は以前からありました。

 現在の多くのワイヤレスサービスでは、周辺のエリアをくまなくカバーするためにアンテナからの電波が360度方向に発信されます。しかし、送信先にユーザーがいなければその電波は大変な無駄になってしまいます。また、ユーザーが利用する電波が干渉しないよう、基地局は常に360度方向の電波状況を監視しなければなりません。これでは1人1人異なるユーザーの通信ニーズに的確に応えるのが非常に難しくなります。

 一方でMASを利用する基地局は、アンテナから電波を360度に発射するのではなく、基地局に通信を求める特定のユーザーに集中にして電波を提供する仕組みを実現します。最初に通信を求めてきたユーザーに対して優先的に広帯域を割り当て、後から通信を求めてきたユーザーにはしばらく通信を待ってもらう。または、同時に複数ユーザーのリクエストを処理したりと、ダイナミックに電波を制御することが可能になります。

 通信事業者は、通信を必要としているユーザーに対して柔軟に電波を提供することができるため、今までにようにあらゆる場所に基地局を設置してユーザーをカバーする必要が無くなり、基地局のコストを削減できます。私たちが行った実験では、データ通信の速度が2倍近くも高速化することが実証されました。

 MASは、マイクロセルからマクロセル、フェムトセル、携帯端末に至るまで適用することができ、将来的にさまざまなワイヤレスサービスに利用されるものと期待しています。

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