仮想化市場の現実と展望

仮想化市場は今空前の盛り上がりを見せている。しかし、それらの技術を今本当に導入すべきなのかどうかは判断が難しいところだ。ただ、幾つかのポイントを押さえることで、導入のタイミングを図ることはできる。

» 2007年09月06日 07時52分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「来る、来る」と言われ続けた仮想化技術。気がついてみれば同技術は新たなトレンドとして堂々たる地位についた。実際に仮想化技術を用いてシステムを刷新することで、コスト削減に成功した事例も目にする機会が増えた。

 大手ベンダーにとっても、仮想化市場は今、非常に熱い市場であるがゆえに、その対応を迫られている。例えば、Intel、AMDといったプロセッサベンダーはそれぞれ、「Intel VT」「AMD-V」といった仮想化に対する取り組みを進め、さらに、後述するI/Oの仮想化技術も提供しようとしている。また、チップセットやインターコネクト関連のベンダーは言うにおよばず、セキュリティやストレージ、ネットワークなどあらゆるベンダーが仮想化技術に目を向けている。

注目すべき3社

 そして、仮想化技術が、いまもっとも熱い視線を注がれていることを如実に示す出来事が8月に立て続けに起こった。

 まず、8月14日にEMCの子会社となったVMwareがIPO(新規株式公開)を実施。その翌日の15日には、Citrix Systemsが、XenSourceを5億ドルで買収することを明らかにした。Xenの登場などはあったが、それまでどちらかといえばVMwareの一人勝ちという状況だった仮想化市場。IPOによって市場の認知が進むほか、キャッシュも潤沢に持つことになるVMwareの独走を許すまじと言わんばかりのCitrixの動きは、今後の仮想化市場を考えるにあたって非常に興味深い。

 CitrixとXenSource。この両者に深く関係するのがMicrosoftである。Citrixは長い間Microsoftと提携関係にあり、Windows Terminal Services機能を基盤とするCitrix Presentation Server(旧MetaFrame)をビジネスの根幹としてきた。XenSourceも2006年6月にMicrosoftとの提携を発表、自社のハイパーバイザー技術と、Microsoftが開発中のハイパーバイザー技術「Viridian」(開発コード名)との互換性を確保するつもりでいる。これらのことからMicrosoftがCitrixを買収、という流れは少なくともすぐに起こる可能性は低いが、Viridianを搭載した製品が実際に市場に投入されるころには、CitrixとMicrosoftの連合軍がVMwareに肉薄してくるであろうことは想像に難くない。

 仮想化市場におけるVMware、Citrix、Microsoftの3社の動向は今後注視しておく必要がある。

導入は本当に今なのか

 ベンダーの動向についてはここで筆を休めて、仮想化技術の現実についてもふれておきたい。

 仮想化技術はサーバのワークロードを高めることで、サーバ数の削減や、それに伴う電力コストの削減など、コスト削減に大きく寄与すると一般には考えられている。もちろんそれは間違いではないが、それはあくまで、“理想的に運用されれば”という前提があってこその話である。実際のところ、この理想まではあと数歩あると考えておくべきである。運用管理面では改善も見られるものの、例えばI/O――現状の仮想化技術では、1つの物理的なサーバ上で複数の仮想マシンを動作させることはできても、そのインターコネクトは、物理的なサーバに備え付けられたものを共同で利用せざるを得ない――の部分で問題が生じやすい状態になっているのだ。

 上述のように、IntelやAMDも「Intel VT-d」や「AMD IOMMU」といったI/Oの仮想化技術を提供する準備を進めているほか、Xsigo Systemsのように、I/Oの統合化/仮想化を提供するベンダーも登場するなど、こうした状況にも改善の兆しは見えつつある。慎重を期すのであれば、仮想化技術の導入はOSだけではなく、ネットワークやストレージについてもそれらが浸透するのを見届けてからでも遅くはない。

 仮想化によってサーバ台数を減らせると安易に仮想化技術を採用した企業が、それぞれの仮想マシンのピークを単純に合算し、それに耐えられるスペックのハードウェアを購入してしまうという笑えない話も実際に存在する。この話から得られる教訓は、仮想化技術の導入はこれまでのサイジングの考えを変える必要があるということだ。このように知らないがために損をするような話は仮想化市場においても幾つも存在する。

 本特集では、主に中堅・中小企業をターゲットに、仮想化技術の導入で注意するポイントを幾つか取り上げ、それぞれについて最新の動向を交えて解説する。実際にはどういった製品が存在し、どういったメリット・デメリットが存在するのか、また、周辺の対応はどうなっているのか。本当に仮想化プラットフォームを今導入すべきなのかどうかを考えていく。参考にしていただければ幸いである。

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