EAP――“待ったなし”のメンタルヘルス対策の切り札システム管理者のココロの栄養素(2/3 ページ)

» 2007年09月13日 07時00分 公開
[富永康信(ロビンソン),ITmedia]

人の入れ替えより復職支援にメリット

 企業が最近メンタルヘルスに注力している要因には、全業界共通のコンプライアンス意識の高まりがある。労働基準法や労働安全衛生法などへの対応のほか、企業や管理監督者は、社員に対する業務には安全面や衛生面などの安全配慮義務が課せられる。それをなおざりにして事故や健康被害などが発生すると、訴訟にまで発展しかねない。そこには、過剰ともいえる高権利意識や個人主義といった社会の価値観の変化が深く関係しているが、企業はそんなリスクを担保しなければならない時代となったといえる。

 さらに、メンタルヘルス不全者急増の現状もある。今までは単なるうつ病とくくられていたのが、身体疾患に症状が表れる「仮面うつ」や、表面的には深刻さが見えない「軽症うつ(微笑うつ)」など、複雑で判断が困難な精神疾患も増え、うつの定義が拡大している。

 うつは「心の風邪」のようなものといわれ、ニュースや雑誌でも特集が組まれるほど身近なイメージなったが、1998年から9年連続3万人を突破する、自殺の要因の9割を占める深刻な病気であることに変わりはない。うつのほか、不安障害やパニック障害などの精神疾患もメンタルヘルス不全に含まれ、うつと不安障害を併発している患者も多いという。

 最近では、発症した社員でも能力のある経験者の復職を支援することの方が、新たに人材を入れ替えるよりはメリットが大きいと考える企業が増え始め、メンタルヘルス不全の予防やケアを重視する傾向が強まってきたともいえる。

人事・労務担当者の悩みは尽きない

 労働安全衛生法の第13条第1項では、常時50名以上の従業員を抱える事業所は産業医を選任し、健康管理を行うことを義務付けている。

 また、2006年4月には、改正労働安全衛生法が施行され、過重労働/メンタルヘルス対策として、すべての事業所(50名未満の事業所は2008年4月以降)で法定労働時間(週40時間)が月100時間を超えた場合、労働者側の申し出があれば産業医が面接指導を行うことも義務付けられた。

 ようやく、日本IBMやNECなどの大企業などが、自社に精神科医を設置する体制を整え始めたが、まだ多くの企業では、健康管理室の設置や産業保険スタッフを常駐させる人件費の捻出さえ困難な場合も多く、法律が適切に順守されているとは言い難いのが現状だ。

 さらに、メンタルヘルスに対応できる産業医は少なく、産業保険に詳しい精神科医も少数といわれており、相談できる専門家が見つからないという状況にも企業は苦慮している。

 一方、主治医が発行する診断書への不信感も少なくない。うつで休職した社員が回復し、職場への復帰を目指す際、主治医の診断書が必要となるが、「職務遂行はおおむね可能」「残業は控えるように」といったあいまいな内容になる傾向がある。それを前提に復職させても、さらに症状が悪化して再休職してしまうという失敗例が非常に多いという。

 「主治医は患者から復職を強く望まれたら、多少早いと感じても“良好”との診断書を書いてしまう。しかし会社側は、医師の診断書があれば復帰のお墨付きが得られたと判断する。また、主治医が望むようなリハビリや復職訓練などを職場側が準備することも難しい」という林氏は、ギャップの根深さを指摘する。

個人的問題解決のために生まれたEAP

 そんな中、「EAP」(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)が注目されている。

 EAPとは、(1)職場組織が生産性に関連する問題を提議するといった目的と、(2)社員であるクライアントが健康、結婚、家族、家計、アルコール/ドラッグ問題、法律、情緒、ストレスなど、仕事上のパフォーマンスに影響を与え得る個人的問題を解決するために作られたプログラム、という2点が定義されている(日本EAP協会Webページより)。

 EAPが普及している米国では、従業員やその家族の生活全般に対し、職場の生産性改善など目的としたコンサルティングという側面を持つが、日本では社員本人へのカウンセリングを中心としたメンタルヘルス対策の意味合いが強い。

 大手企業は、社内にEAP部門を設ける動きを活発にする一方、中小企業などではメンタルヘルスのアウトソーシングとして外部EAPの導入を進めている。最近では、労災訴訟による企業イメージの低下なども懸念され始めていることもあり、メンタルヘルス対策をリスクマネジメントととらえ、EAPを活用する動きが加速している。

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