「量は質を殺すのか」――メディアの新たな方向性Weekly Access Top10

10月1日、新聞社がメディアをスタートさせる。マスメディアの新たな歴史を切り開く試金石となるのか――その動向に注目が集まる。

» 2007年09月29日 00時00分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 今週は「お祈りパンダ」関連の記事がランキングをにぎわした。早くも、企業が「お祈りパンダ」作者を採用しようとしている動きには閉口してしまった。優秀な人材の採用には糸目を付けない企業の気持ちも分からなくもないが、その企業を世間はどう見るのだろうか、などと考えてしまう。

 10月1日が待ち遠しい。産経新聞社と毎日新聞社は、これまで運営していたそれぞれのオンラインメディアを刷新し、それぞれ「MSN産経ニュース」「毎日jp」を新たにスタートさせる。

 MSN産経ニュースは、メッセンジャーやガジェット、キーワードにマウスカーソルを合わせると検索結果を表示する機能を、毎日jpは、ソーシャルブックマークやRSS機能に加え、アルファブロガーによる特集コーナーなどを提供する。Webメディアの特性を生かした情報提供の仕組みを取り入れている。メディアとしての新たな方向性を示すものといえるのではないか。

 「新聞を読む人は減ったが、ニュースへのニーズが減ったわけではない」。出社後のメールチェックと同様に、ポータルサイトにアクセスし、ニュースを拾い読みする行為が当たり前のようになっていることや、2005年に発表されたNHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」(2005年度版)の結果から考察できるものだ(関連記事参照)

 これは、記事1つ1つが価値を持つようになったとも言い換えられる。ソフトウェア業界におけるSaaSの台頭と類似し、欲しいものをユーザー側が自由に選択するという流れと同じだ。真新しいことではない。

 新聞社は、新聞の売り上げを優先するがゆえ、オンラインメディアはあくまでも新聞用コンテンツの2次利用の場という考えから抜け出せないでいた。このほどMSN産経ニュースが打ち出した「スクープを紙媒体よりも先に扱う」「Web掲載で反響のあった記事の紙面掲載を検討する」といった考え方から、新聞社各社がようやく重い腰を上げ、旧体制に見切りをつけ始めたことがうかがえる(関連記事参照)

 オンラインメディアでは「量が質を殺すのか」という問題が常に懸念される。世の中には新聞に取り上げられない出来事の方が圧倒的に多い。あらゆる記事を掲載できるオンラインメディアは、ややもすれば玉石混交の情報であふれかえる可能性を含む。また、多くの記事を1秒でも早く届けることを至上命題に抱えている。何がスクープで、何がスクープでないのかの線引きがあいまいになってはいけない。

 ある出来事が歴史として刻まれるとき、先駆者は、周囲からの罵声や非難に耐えながら、血のにじむ思いでそれを断行する。その動きが、社会を変え、歴史の新局面を切り開く。「新たなネット報道を開始したメディアの誕生」という言葉から、収益性が確立されていないオンラインメディアというビジネスモデルに勇猛果敢に切り込む新聞社の気概をかいま見ることができる。メディアの動向について、これからも目がはなせない。

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