マイクロソフトとターボリナックスの提携に見る「UnitedLinux」の影MS加治佐CTO×ターボ矢野CEO対談(1/3 ページ)

Microsoftが相次いで発表するLinuxディストリビューターとの提携。その舞台裏では相互運用性というキーワードが踊るが、そこにはGPLv3に対する懸念、さらにUnitedLinuxの影もちらつく。MS加治佐CTO、ターボ矢野CEOとの対談を基に今後を占う。

» 2007年11月07日 05時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 マイクロソフトとターボリナックスは11月6日、同年10月末に発表した包括的業務提携に関する説明会を開催した。それに先立ち、ITmediaでは、マイクロソフト業務執行役員の加治佐俊一CTOおよびターボリナックス代表取締役社長兼CEOの矢野広一氏と、この提携について議論する機会を得た。その席で両者は「一番大事なのはインターオペラビリティ(相互運用性)が確保されていること。相互運用性を高めていくには知的財産(IP)が守られていることも重要」と話す。

MS加治佐CTO×ターボ矢野CEO Microsoftの加治佐CTOとターボリナックス矢野CEO。今後、ターボリナックスが販売するWizpyなどの製品についても、そのオンラインストレージ部分にMicrosoftのインフラを利用することなども検討中という

 「部分的には今後もWindowsとLinuxが競合することは間違いないが、現実を見るとWindowsとLinuxの混在環境が非常に進んでいる。一方で、特許問題を不安視する意識は減少の方向に向かっている」と矢野氏。

 Linux/OSSには235件の特許侵害があると主張するMicrosoftのスタンスは明確だ。「あなたがこれを侵害している、ということではなく、Microsoftはこうした特許を持っています」と話すことで、具体的な訴訟を起こすのではなく、ライセンス契約を進めるという戦術を採っている。このことが意味するのは、ライセンス契約を結んでいないLinuxディストリビューターを使うことは、潜在的なリスクを内包したままであるという単純な事実だ。

 「特許問題は何も解決していない、にもかかわらずそれを不安視する意識が減少しているということは、ユーザーは“みんなで渡れば怖くない”的な発想になりつつあるのではないか」――矢野氏が口にするこの不安は、今回の発表に至る過程でMicrosoftとの協議を重ねるにつれ、確信へと変わっていったようだ。もともとはOpen XML-ODF Translatorがらみでのスモールスタートだった両社の関係は、MicrosoftがFastCGIでZend Technologiesと協業していることも影響してか、より広範な協議が重ねられるまでに成長した。

 「もちろん競争はあるが、新しいルールとしては相互運用性が確保された上での競争。(従来のように)囲い込む形での競争は今後そぐわない」――加治佐氏のこの言葉からも分かるように、Microsoftも近年、相互運用性の重要性についての認識を新たにしている。

 相互運用性の確保に当たって無視できないIPの問題。マイクロソフトが2006年11月に設立した「マイクロソフト イノベーション センター」(MIC)を通じて、「IPライセンスプログラム」という同社が保有するIPライセンスの提供を開始するなどの取り組みを進めている。

 今回のマイクロソフトとターボリナックスの発表について矢野氏は「わたしとしては、この契約はアジア地域全体まで含めた独占的な契約にしたいところではあったが、落としどころとしては“アジアで最初に契約を交わしたパートナー”であるというスタンス」と話す。加治佐氏も、「日本ということであれば、ターボリナックスは戦略的に重要なパートナー」としながらも、アジアに展開するほかのLinuxディストリビューターに対する門戸を閉じるつもりもないようだ。

 今回の発表で両社が唯一独占的に行うものを挙げるとすれば、インターオペラビリティ・ラボという名称で成果物を共同で検証する場の存在だ。2008年1月に開設予定の同ラボで検証が進められる予定のシングルサインオンモジュールは、13カ月後に最終版がリリースされる予定で、2008年半ばにはβ版が提供される見込みだ。

 具体的なシングルサインオンモジュールの実装についてはまだ未決定としながらも、基本的にはユーザーランドでのアプリケーションに対するプラグイン的なものになると話すのは、ターボリナックス技術本部本部長の高橋功至氏。実装形態はともかく、Microsoftの特許を用いていることでその配布形態は一意に決まる。バイナリ配布である。

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