第3回 パフォーマンス マネジメントを支える、これからのBIの姿ビジネスインテリジェンスの新潮流 〜パフォーマンス マネジメント〜(3/3 ページ)

» 2007年11月22日 07時00分 公開
[米野宏明(マイクロソフト),ITmedia]
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 通常、プロセス全体が完了しなければデータが共有されることはないため、いかにプロセス全体のスピードを上げるかが重要になる。もしくは、データベースを活用するアイデアもある。シートに入力したデータが、シートというファイルではなく、そのままデータベースに書き込まれれば、収集や集計の手間すなわち時間を削減することができるだけでなく、すぐにデータを共有できるからだ。

 やはり先の予算編成の例であれば、予算を入力する人と、予算と実績を対比したい人は同じ人物なのだから、通常は他人の予算データなど必要ない。毎月末に予算の見直しを求められシステムに入力させられている人は非常に多いと思うが、そのような人も自分の予算消化状況は、別のスプレッドシートに独自に管理しているだろう。予算管理システムが管理されるためのシステムではなく、自分で予算を管理するために使えるレベルのシステムであれば、あえて月末に作業しなくても、毎日自然とできてしまう話ではないだろうか。

 その際にスプレッドシートがインタフェースになっていることが重要である。ルールは頻繁に変更されるし、人それぞれに予算管理のコツが違ったりする。共有すべきデータのフォーマットが揃ってさえすればよいのだから、計算過程はスプレッドシート上の関数やマクロに任せてもよい。ただし、昨今の内部統制強化の側面においても、アクセス制御やライブラリ管理などにより、データやロジックのセキュリティと一貫性の保持のための仕掛けが必要である。

現場対応スピードの向上

 現場で今起きていることへ対応するためのアイデアは、現場でしか生まれない。つまり現場対応スピードの向上には、現場のアイデアを生み出す材料の提供が必要となる。ただし、繰り返しになるがそれは単なる分析ツールを提供しましょうという話ではない。データベースとOLAPツールだけ与えられても、それをいきなり使いこなせる人はいない。グラフの読み方など学校で習った記憶もないし、情報の裏表をなめまわして真相を探るという行動様式にも慣れていない。だからツールの使い方は書籍で理解できても、今自分にどんなグラフが必要なのかが分からない。さらに悪いことに、現場は非常に忙しい。上に立つ者は、自分の現場時代をすっかり忘れて、やれ情報武装だの科学的営業だのとプレッシャーをかけるが、そんな不確かなものにかまけている時間などない。

 現場で必要なのは、うまくいっているのかいないのか、100万円なのか1000万円なのかという話であり、統計的な確率が何%だろうがどうでもよいことだ。ざっくり分かったところで、必要ならば掘り下げればよいし、そのままでよいかもしれない、またそれは、ざっくり分かった時点でないと決められない、そういうものだろう。

 だからこそ、BIツールは現場の人自身が使わなければ意味がないし、そのためのハードルを下げる必要がある。ただし、先にも述べたようにツールの使い方が分からないからハードルが高いわけではない。「ざっくり」レベルの分析結果、すなわち次なる分析の着眼点、出発点なるものを与える必要がある。

 ここで、実績管理ツールとして認識されている「スコアカード」のような業績モニタリングツールが役に立つ。ただし、成果を管理されるための仕掛けとしてでななく、問題点を素早く一段掘り下げるためのきっかけとして、という意味である。現場の従業員は、自分が担当する業務の調子が良いか悪いかぐらいは分かっており、自分の担当する業務の成績を向上するためにどうすればよいのか、という判断材料が欲しいのである。

 従って、単なるKPIの羅列では意味がない。成果を管理するためのものではないので、現場が通常判断に使うようなデータをざっと集め、通常頭の中でやっているのと同じような方法で、グループ化したり親子関係を定義したりするような形になるだろう。

 例えばある営業部門では、既存顧客のロイヤルティ向上による利益の拡大を目指しているとしよう。ロイヤルティ向上を測定するためのKPIとしてすぐに思いつくのは顧客満足度指標による直接的な測定だ。しかし、せいぜい年に1、2回しか取得できないような顧客満足度調査にのみロイヤルティの測定を頼るわけにはいかない。その場合次善の策として、来店数や購入リピート率、購入単価、クレーム数、返品数、個々の商品へのアンケート回答、ブログへの書き込みなどから総合的に判断することになる。しかしこれらのKPIは、集計方法(平均や合計など)や取得頻度、単位、ロイヤルティ測定という観点での重要度が異なる。目標値に対する実績値の達成度合いに基づく「スコア」に変換して集計方法と単位を揃え、ウェイトをかけて加重平均することにより、最終目的であるロイヤルティの測定を行うことができる。

 以上からスコアカードツールには、任意の階層構造による集計が行えるような柔軟性と、必ずしもデータベースに入っていないような業務データ、例えばExcelファイルなどで運用されているようなデータへも、面倒な手続きを必要とせず素早くリアルタイムにアクセスできることが重要となる。さらにそのようなスコアカードを、現場に近い人自身が作成できることが重要だ。スコアリングやウェイトのかけ方一つ取っても、その部門が直面する課題や環境によって、大きく変わってくるはずである。あまり深いIT知識を持たないビジネスユーザーでも気軽に作成、メンテナンスできる容易性は必須条件となる。

実績管理と投資計画

 ここでようやく、一般的に言われる業績管理システムの範疇になる。実績は通常、ERPなどの業務システムに表現されているので、これらのデータを総合的に管理する手段としては、同じくスコアカードが利用できる。ただしこの場合の閲覧者は経営者やマネジメント層となり、まさに業績を監視するためのツールとなる。従って、より俯瞰的な集計からのドリルダウンが必要となり、参照するデータベースには、必要なデータが統合されていることが必須となる。その統合されたデータベースに基づき、新たな投資計画の立案に移る。ERPに標準添付されているような分析ツールやレポートなどを駆使して、年や四半期の単位で計画を行う。この部分はある意味伝統的なBIの姿であり、特に目新しいこともないので、この場での説明は省略する。

統合的なパフォーマンスマネジメントシステム環境の実現

 これらの技術要素をつなげるためのコミュニケーション機能が必要なことはもうお分かりだろう。ドキュメントベースならワークフローだろうが、情報のスピーディな共有の観点では不向きな点が多い。だからこそ、ここでBIツールの役割が重要となる。戦略マップやスコアカードの共有、効率的なプランニングの実践、成果の分析や予測などを、単一のデータベース(より厳密にはデータモデル)を中心とすることで、中核のデータベースの鮮度はその組織において常に最新となり、最速の情報活用環境を整えることができる。

 けれどもこのBIは、今までのBIとは位置づけがまったく違うことを意識しなければならない。分析ツールという枠を超え、コラボレーション環境の中核となるのである。パフォーマンスマネジメントという一つのサイクルの中で、BIやナレッジマネジメント、品質管理やバランススコアカードなどさまざまなツールや方法論が、それと意識されることなくつながっている姿が、最終的に目指すべき姿だ。組織のパフォーマンスを向上する、という目標に向かっていくことが重要なのであって、ナレッジマネジメントやバランススコアカードを「する」ためにシステムを導入しても意味がない。

 この当たり前のことがなぜか、キャッチーなキーワードの登場とともに忘れられてしまう。そんな愚を毎回繰りかえすのは、もういい加減やめたほうがよい。

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