大規模なコラボレーション活動を成功に導く5つの原則――パート3Magi's View(2/3 ページ)

» 2008年04月09日 00時30分 公開
[Charles-Leadbeater,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

創造

 We-Thinkが可能にする集団による創造的な活動とは、視点やスキルを異にする多数の参加者が分散しながら作業を進め、そうした形態での貢献を可能とするツールを用意した上で、各自の果たした成果を共通する目的の下で統合できてはじめて機能するものである。このように参加者が分散して活動する場合に不可欠なのは全員が共有できる1つの目的であり、そうした存在があってこそ組織はまとまり、各自の成果を統合できるようになる。

 こうしたコアとなりえる存在は、古代ギリシアの叙事詩、遺伝子のコード、今日的なソフトウェアプログラム、1冊の百科辞典などさまざまだが、いずれにせよこのプロセスの大部分においては各参加者がそれぞれの作業を並列的に進めていく関係上、その過程ではコアとして目指す成果そのものが変質していく事態もある程度は避けられない。つまりこうした成果とは、考察や模倣や支持や批評というプロセスを反復的に積み重ねていくことで、それ自身が成長していくものなのである。

 多くの人間にとっての参加の動機は、この種の活動に付随して得られる喜びと、自分の果たした貢献をほかの参加者に認めてもらいたいという欲求にほかならない。それゆえにこうしたコミュニティーは、フォーラム、Webサイト、イベント、広報誌、雑誌などの形態で、参加者が各自のアイデアを公開して他人と共有するための場所を用意しておく必要がある。

 いずれにせよ創造性を発揮する集団とは、自由放任型の組織ではなく高度な統制されたものとなるはずだ。ここでは専門家とアマチュア、聴衆とパフォーマー、生産者とユーザーの区別などはあいまいとなるが、その一方で各自の貢献度や過去の実績を基にしてコミュニティー内で特に秀でた存在が集まりだし、ネットワーク世界における貴族社会とでもいうべき体制が形成されていく。有効な自己統制が機能していない限り集団としての創造性は潰えてしまうが、その理由はソースコードに取り込むべき機能にしろ、サイトに掲載するべき内容にしろ、ニュースのトップに掲げるべき記事にしろ、そうしたものを確定するには何者かによる意思決定が必要だからである。またコミュニティーのルールに従えない参加者は何らかの方法によって排除されなくてはならない。ここではほかの参加者の下す決定を尊重させる必要があるのである。

 この種のコラボレーションの基になるのは創造的才能だが、それは非常に多様な存在である。何が得意分野で、どのような手法を用いるかは、人それぞれだからだ。さらに創造的才能というものの優劣は外部から推し量るのが非常に困難で、作業能率を評価する時間動作研究などで計測できはしない。よって創造的活動に従事する人々の作業を職務明細書として書き下すのは不可能であり、例えば“新規のアイデアが必要なので誰それが何時までに創造しろ”という指定はできるものではないのだ。

 こうした創造的活動の管理という困難な課題を、オープンソースコミュニティーの場合は意思決定権を複数の小グループに分散するという方式で対処しており、各グループはそれぞれが有すスキルと課せられた役割に応じて自分たちが何をすべきかを独自に判断するのである。またこのように同じ土俵で活動する人間が多数いる環境では、他人の目を欺くのは非常に困難で、そうしたものはすぐに露見してしまう。このピアレビューというシステムは正常に機能さえすれば、低コストにてアイデアを共有し高い品質を維持する上での優れた手法なのである。

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