得意先が分散化すると情報量は増加する。加えて、納期も短縮すればさらに増加傾向は強まる。増え続ける社内の情報量を対処療法的に対応するために、ITを導入しても解決の糸口は見えてこない。
私の知り合いの大企業の社長が、どこかの講演会で仕込んできたのか、ある石には水の浄化作用があり、この石を水槽に放り込んでおけばいつまでも水が腐ることはないと言い出した。
社長室に水槽を買って来させてその石を入れ、その水をすくってコーヒーを入れるようになった。
社長が信じるだけなら他愛もない話でどうということはないのだが、あいにく、その会社の主力製品は蒸気発生器であり、言わば水のプロともいうべき会社であった。
会社のトップが重要顧客に石の効用をうたい、その水で沸かしたコーヒーを勧める様を見て、関係者は会社のブランドに悪影響が出るのではと青くなった。水の方は秘書が社長の留守の間に頻繁に入れ替えていたので、コーヒーを飲んだ人がお腹の調子を悪くする事はなかったのだが。
知恵のある者がその石の効用を科学的に調べましょう、有効ならビジネスチャンスですと社長に提案し、自社の研究所に調べさせた。研究所には水の研究一筋の専門家がゴロゴロしており、間もなく、「その石と比較対象群には有意の差は見られなかった」というレポートが提出された。
しばらくして、社長室から水槽は撤去され、社長の口から石の話が出ることはなくなった。
社長は会社における最高の意思決定者である。その社長の頭脳に間違った、あるいはあいまいな情報がインプットされ、知識として固定されてしまうと、それを修正するのは容易でない。会社のトップに正確な情報を伝達することが極めて重要なのである。
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