システムが開発者をコーチングする日――JazzがもたらすものIBM RSDC 2008 Report

IBMはEclipseの一件を通して、ソフトウェア開発におけるコミュニケーションの重要性を強く認識した。日本IBMのRational事業部を率いる渡辺氏は、その思いが実装されたのがJazzプラットフォームであり、究極的にはシステムが開発者をコーチングする日が来るかもしれないと話す。

» 2008年06月04日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 フロリダ州オーランドで開催中の「IBM Rational Software Development Conference 2008」。IBM Rational Team Concert 1.0などJazzプラットフォームとして初の商用製品が発表されるなどソフトウェア開発に与えるインパクトは大きいが、日本IBMのRational事業部を率いる渡辺公成事業部長はどう見ているのだろうか。同氏に話を聞くことができた。

渡辺公成 「システムを作るデマンドは日本にある。オフショアなどでグローバルのリソースを使うには、要求をまとめる立場にある人が要求とは何たるかを理解しなければならない」と渡辺公成氏

Eclipseの経験から得られたこと

 そもそもRationalはなぜコラボレーションという概念をソフトウェア開発に取り込もうとしているのか。それは、IBMがEclipseで学んだ教訓が大きく影響している。IBMが自社のアプリケーションサーバ用の開発環境として作り上げたEclipseは2001年11月にオープンソースコミュニティーにソースコードが寄贈されたが、一連の流れの中でIBMが学んだのは、プロジェクトに対するコミュニティーの関心を持続させることの重要性だった。

 そしてこの教訓は、オープンソースコミュニティーだけでなく、分散化傾向にあり、かつ高度に複雑化した開発プロセスを持つ昨今のソフトウェア開発全般に当てはまるとIBMは考えている。エリック・ガンマ氏はかつて「コミュニティーの関心がなくなれば、リアルタイムでコミュニティーのニーズを把握できなくなる上、フィードバックが継続して得られるはずがない」と語っている。ここで、コミュニティーをチームメンバーと置き換えてみると、それはソフトウェア開発に共通するものであることが分かる。

 チーム内のコラボレーションを盛んに行い、効果的なコミュニケーションを取ることがプロジェクトの成功要素である――ソフトウェア開発およびそのデリバリーにおけるコラボレーションの重要性を認識したIBMはその後、開発チーム、開発ツール、そして開発プロセスをまとめるプラットフォームとしてJazzを発表した。あれから2年、IBMは今、いよいよJazzプラットフォームを現実の開発現場に送り出す準備を整えたようだ。

Jazzが目指すのは“システムによるコーチング”

 渡辺氏の言葉を借りてJazzプラットフォームを端的に表現するなら、「開発現場から得られる情報を適切に収集・解釈し、それを開発者に自然な形でフィードバックするもの」といえる。そして同氏はこれを「システムがコーチングする」と表現する。十分にシステム化され、開発に関連するデータがユーザーの手を煩わせることなく収集・分析されるようになることで、開発者は自分の仕事に集中し、最高のパフォーマンスを出すことができる。

 Jazzプラットフォームとして初の商用製品となるIBM Rational Team Concert 1.0が発表されたことで、今後この流れは加速していくことが予想される。「人間が使うシステムを作るのもまた人間」と渡辺氏。開発者がどうモチベーションを持って仕事に励むのか、それをシステム的にどうコーチングし得るのか。その答えがJazzには込められている。

 IBM Rational Software Development Conference 2008では、コラボレーションと同じくらいの頻度でアジャイルという言葉も幾度となく耳にした。正確には“アジャイルなRUP”(Rational Unified Process)についてだが、アジャイルとRUPは決して水と油ではない。むしろ、アジャイルの特徴である柔軟性は、RUPが培ってきた知見を加えることで、さらに有用なものとなるはずである。すでにグローバルではこのアジャイルなRUPとそうした手法を用いるチーム内のコラボレーションを強化する機運が高まっており、両方を満たすRational製品が選ばれているというわけだ。

 翻って日本はどうか。渡辺氏は、こうした海外の動向と比較するとまだ日本は意識の遅れがあると話す。その背景には、日本市場という単体でそれなりの市場規模を持つゆえに、グローバルに目を向ける必要性が十分に感じられていなかったことなどがあるが、グローバルで標準となりつつある動きにキャッチアップできていない状態になってしまっているという。

 渡辺氏は「世界は変わった。日本も変わらなければならない。変革のキーは“危機感”」と大局を見ることの重要性を説き、続けて、「Jazzプラットフォームで構築されたRational製品が日本の開発者をグローバルレベルに引き上げる起爆剤になることを確信している」と自信を見せている。

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