10/100/1000BASE-Tでは、最大のセグメント長は100メートルと規定されている。つまり、100メートル以上のケーブルは使用できないことになっているのである。では、実際に100メートル以上のケーブルで端末を接続した場合、どうなるのだろうか? この疑問を解決するため、100〜200メートルのイーサネットケーブルを作成し、2台のPCを接続してみた。なお、テスト環境や使用したケーブルは実験1と同様だ。
表3が実験結果だ。まず、200メートルのケーブルを使用した場合ではNICがケーブルを認識せず、通信自体が行えなかった。また、150メートルのケーブルの場合、1000BASE-Tでの通信は行えないものの、100BASE-TXでの通信は行えている。さらに、140メートル以下のケーブルでは1000BASE-Tで問題なく通信ができ、パフォーマンス低下も発生していない。ただし、CableIQによるテストでは110メートル以上のケーブルはケーブル長が規格を上回っているため「不良」と診断されている。
長さ(メートル) | FTP(Mバイト/秒) | PING(ミリ秒) | CableIQテスト |
---|---|---|---|
200 | - | × | × |
150 | 11.22 | 0.49 | × |
140 | 90.18 | 0.12 | × |
130 | 90.76 | 0.12 | × |
120 | 90.59 | 0.12 | 10BASE-Tのみ○、ほかは× |
110 | 90.72 | 0.12 | 10BASE-Tのみ○、ほかは× |
100 | 90.78 | 0.12 | ○ |
それでは、実験1の場合と同様にDTX-1800を使用してケーブルの解析を行ってみよう。
計測結果から、規格値からの最小マージンを抜き出したものが表5だ。各項目の値が大きくなるほど特性に余裕があり、一方で負の値になっている項目は規格に適合していないことを示している。
表4から、全体の傾向として、ケーブル長が長くなった場合でもNEXTの値はほぼ変動しないが、減衰量はケーブルが長くなるほど悪化し、そのため信号にノイズが混入しやすくなっていることが分かる。ただし、ACRの値で見た場合は150メートルでも基準値を満たしていることから、150メートルのケーブルで1000BASE-Tで通信が行えなかった原因は伝搬遅延にあると考えられる。
ケーブル長(メートル) | 最大減衰量(dB) | 最小NEXT(dB) | 最小ACR(dB) | 伝搬遅延(ナノ秒) |
---|---|---|---|---|
200 | -18.1 | 9.1 | -7.6 | -454 |
150 | -7.6 | 9.5 | 3.0 | -200 |
140 | -5.5 | 8.9 | 4.4 | -149 |
130 | -3.4 | 9.4 | 6.9 | -99 |
120 | -1.3 | 9.4 | 9.0 | -49 |
110 | 0.9 | 9.1 | 10.7 | 2 |
100 | 3.1 | 9.3 | 13.0 | 53 |
伝搬遅延は信号がケーブルの片端から発信された後、もう片端に到着するまでにかかった時間を表すパラメータだ。そのため、ケーブルが長くなればなるほど伝搬遅延は大きくなる。1000BASE-Tでは伝搬遅延は555ナノ秒まで、と定められているが、今回の実験結果では150メートルの場合で755ナノ秒、200メートルの場合で1009ナノ秒と、それぞれ200ナノ秒、454ナノ秒も基準値をオーバーしている。そのため、ケーブルに接続されたPC間で正しくネゴシエーションが行えず、1000BASE-Tでの通信が不可能だったのではないか、と考えられる。
今回の実験から分かるとおり、UTPケーブルで使用されている、「信号ペアをより合わせる」というノイズ対策方法は大きな効果があることが分かった。ケーブルとコネクタの結線を間違える、ということは注意していれば防げる問題であるが、例えばコネクタの接続部のよりを戻しすぎる、といったことでもノイズの影響は大きくなる。「正しく接続しているはずなのに通信できない」「速度が明らかに遅い」といった問題が発生した場合、ケーブルが問題である可能性は十分に考えられる。ケーブルは意外に忘れられがちな要素ではあるものの、ネットワークの導通に重要な働きをしているのである。
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