自由ほど厳しい!――テレワークの勘所とはWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2008年07月07日 00時15分 公開
[松岡功ITmedia]
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「働き方の変革」を問うテレワーク

 さてこの在宅勤務をはじめとしたテレワーク、筆者の記憶では日本でも1990年代から話題に上っていたが、普及はあまり進んでいなかった。少し歴史を紐解くと、テレワークは1970年代に米国において、エネルギー危機とマイカー通勤による大気汚染緩和を目的に始まり、1980年代に入ってパソコンの普及や女性の社会進出が活発化して注目を集めるようになった。にもかかわらず、日本において普及が進まなかったのは、テレワークの本質が「働き方の変革」であるだけに、行政、企業、個人(社員)のすべてに関わるさまざまな課題をクリアする必要があったからだ。

 とはいえ、遅まきながら日本でも2002年頃から行政サイドによる実態調査などが始まり、2006年9月には、安倍首相(当時)が就任後初の所信表明演説で「自宅での仕事を可能にするテレワーク人口の倍増を目指す」と宣言。これで普及への気運が盛り上がり、昨年から今年にかけて日本の大手企業でも在宅勤務制度の導入に踏み切るところが増えてきている。

 ここにきて行政がテレワークに力を入れているのはなぜか。この分野を管轄する国土交通省のサイトに掲載されている説明によると、「家庭生活との両立による就労確保、高齢者・障害者・育児や介護を担う者の就業促進、地域における就業機会の増加等による地域活性化、余暇の増大による個人生活の充実、通勤混雑の緩和等、さまざまな効果が期待されている」からだ。影響する範囲が広く、さまざまな行政施策とも密接に関連するだけに、行政が普及への環境整備に乗り出すのは必然だろう。また、さまざまな効果が期待できるテレワークは行政サイドにとって“改革の旗印”に掲げやすい。そうした意味から、行政サイドは今後もテレワークの普及に力を入れるものと思われる。

 では、今後テレワークが普及していくうえで、何が勘所になるのか。先ほどテレワークの本質は「働き方の変革」にあると述べたが、最大の勘所はそれに向けた意識改革にあると考える。それは企業も個人も然りだ。テレワークの普及に努めている知人のコンサルタントが、こんな話をしてくれた。

 「企業の多くはまだテレワークについて、育児や介護を担う社員に対する福利厚生の施策という意識が強い。そうではなく、社員個々に最高のパフォーマンスを発揮してもらうための働き方の選択肢を提供するのだという認識が必要だ。一方、社員もそれに応える責任があることを肝に銘じるべきだ」

 では社員としての責任を全うするためには何が求められるのか。それは、意識においてもスキルにおいても、それぞれの仕事のプロであることだろう。その根本には「自由ほど厳しい」という覚悟が必要だと考える。

 テレワークが今後、社会に根付いていくためには、行政や企業による制度・仕組みづくりはもちろん、職場における理解やプロの仕事人育成が欠かせない。また昨今、企業の経営サイドと社員の関係は、情報セキュリティの取り組みにみられるように「性悪説」が幅を利かせつつあるように思えてならないが、テレワークを活かすためには「性善説」がベースにないと成り立たないと思う。テレワークは、そうした考え方や取り組み方をすべて含めて、私たちに「働き方の変革」を問うているのではないだろうか。

プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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