事例から見る、ネガティブスパイラルへの陥り方と対処術なぜあの会社は叩かれたのか(1/2 ページ)

不祥事やリスクによってなぜ企業は簡単に危機に追い込まれるのか。その仕組みと対処の仕方をみていこう。

» 2008年07月22日 08時00分 公開
[会澤尚美(Prap Japan),ITmedia]

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 前回は企業における「危機の本質」について述べたが、物的あるいは人的ダメージは企業にとって痛手ではあるものの、あくまでも一過性のものであり、その多くは保険によってカバーできるものが多い。その後の企業努力によって回復することが可能である。

 「本当の危機」とは、企業が長い間培ってきた「信用・信頼」を失うことをいう。この無形資産を大きく損なうような不祥事によって、企業はネガティブスパイラルに陥っていく。つまり、歴史と信用のある企業ほど不祥事におけるダメージは大きい。「信用・信頼」を築くには長い年月がかかるが、崩壊はほんの一瞬だ。この重大な危機は、「不本意にも起こしてしまったこと(リスクの発生)」によって直接引き起こされるのではない。嘘や虚偽報告(結果として「嘘」「虚偽報告」にいたることが多い)、もしくは隠ぺいなどにおける「対応の間違い」によって重大化し、不祥事となって企業を襲う。

対応の間違いとは?

 それでは「対応の間違い」とはどのようなものだろう。そのほとんどは、コミュニケーションの上の失敗によるものである。事例を基にコミュニケーションの失敗について考えてみよう(図を参考)。

「社内にきちんと情報公開をしなかった」

 これによって、社員が不安になり、内部告発をする。そこから、さまざまな風評を流れて拡大化していく。Webサイトに書き込みがあり、マスメディアが取り上げる。昨今のさまざまな食の偽装といった問題に見られ、次から次へと新しい事実が発覚して、危機が長期化していくのはほとんどがこのパターンである。

「些細なことがらのクレーム対応に失敗する」

 その消費者が、Webやマスメディアを通じて告発し、さらに長期化、拡大化していく。某電機メーカーのアフターサービスにおけるケースでは、製品を購入した消費者(この人物は「クレーマー」として有名であったといわれる)が何度目かの電話をかけた際に、担当者が「あなたのような人を“クレーマー”というのです。目的は何ですか」と返答し、この暴言が録音されてWebで公開された。それをマスメディアが報道し、メディアの報道によってさらに拡大していった。そのインパクトのあるやり取りの音声を多くの人がWeb上で聴取し、事件は巨大化、長期化していく。たった一つの製品修理に対するクレームへの対処ミスが、企業を揺るがすような事件に発展したケースだ。

「メディア対応に失敗」

 メデイアから大バッシングを受けて長期化していく――。このケースは枚挙に暇がない。経緯はさまざまな場合があるが、現状では「マスメディア=ほほ世論」を指すという構図である以上、危機の重大化していく最終段階には、必ずと言っていいほどこのような状況になる。失敗の方法はさまざまだ。「私も被害者だ、責任はない」と思わず本音を言ってしまう、質問に追い詰められて、嘘をつき、どんどん嘘の上塗りをする、挑発的な意見に乗り、不適切な暴言を吐く、服装などの外見や態度に少しも留意せず記者会見などに現れ、メディアがそれを指摘する……このようにさまざまはであるが、共通して言えるのは、対応者が「何を伝えるべきか」「何を守るべきか」を整理しないで、会見やインタビューなどに臨んでしまうことにある。

図:対応の誤りが重大な危機を招くメカニズム

 逆に最低限コミュニケーション対応さえ間違えなければ、「極悪人」「極悪企業」扱いされることはないだろう。重大な危機を引き起こす事態には至らないともいえる。

 危機に際して適切なコミュニケーション対応を取れば、逆に良好なブランドイメージを獲得するケースこともある。かつて、脅迫文とともに異物混入された製品を送りつけられた某医薬品メーカーが即座に全品の回収を決定し、メディアに対して好感度の高いコミュニケーション展開をしたことがブランドイメージの向上につながった。一方で、同社製品が他社に比べて製品上の基本的な危機管理ができていなかったと、業界内で批判する風向きもあったが。

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