WiMAX普及への3つの疑問、WiMAX Forum副代表が回答端末は1台10ドルも視野に

無線ブロードバンドサービス「WiMAX」は、2007年までに技術面や運用面での準備をほぼ終えた。サービス普及に向けた、事業者や端末、他サービスとの競合など3つの疑問について、WiMAX Forum副代表のシャクリ氏が回答する。

» 2008年07月24日 08時30分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 次世代ブロードバンドサービスの「WiMAX」は、2007年までに技術仕様の国際標準化や各国における無線周波数の割り当てといった基本的な準備が進められ、現在は、商用サービス化に向けた準備が世界的に進められている。通信事業者や端末の動向、他のブロードサービスの競合について、WiMAXの推進団体「WiMAX Forum」の副代表を務めるモハンマド・シャクリ氏に尋ねた。

通信事業者に不安なし?

 WiMAXサービスの提供を表明する通信事業者は世界各国で数百社になる。各社では、政府機関などから無線周波数の割り当てを受けたり、試験サービスを始めたりしている。国内ではKDDI系のUQコミュニケーションズが2009年初頭に試験サービスを始める予定だ。だが、2007年後半には有力事業者の1つ米Sprint NextelがClearwireとのWiMAX網の共同構築を撤回するなど、WiMAXサービス化に向けた通信事業者の動きを不安視するムードが一部に広がった。

WiMAX Forumボードメンバーでもあるシャクリ氏

 シャクリ氏によれば、すでに118カ国・地域で305社の通信事業者が準備を進めており、その大部分がすでに商用化ステージに到達している。WiMAX Forumの見通しでは、2012年までに201カ国・地域で538社がサービスインするという。

 「特に期待しているのは日本を含めたアジア地域だ。各国ではブロードバンドに対するユーザーの期待が非常に高い」とシャクリ氏は話す。ユーザー規模についても、2012年までに世界全体で1億3300万加入に達するとしており、WiMAXは商用的に成功するとの見方を強調している。

 通信事業者の多くは、大都市やその周辺部、もしくは地域単位でのサービスを計画。大きく、移動しながらのデータ通信用途(IEEE802.16e、移動体)と、地理的条件などで光ファイバなど有線の敷設が難しい地域でのアクセス回線用途(IEEE802.16-2004、固定系)の2種類にサービス系が分かれる。「サービスエリアを全国的に提供しなければならない携帯電話とは異なり、WiMAXはまず拠点単位でサービスエリアが形成されていくだろう」(同氏)

WiMAXの普及予測

端末の種類はどのくらいか?

 WiMAXの利用には、通信カードをPCやハンドヘルド端末に接続する、もしくは通信モジュールを端末に内蔵するといった形態が想定されている。例えば、米IntelはWiMAXとWi-Fiに対応したチップセットを供給すると表明しており、このチップセットを内蔵したMID(Mobile Internet Device)がメーカーから発売されるとしている。サービスイン段階では、果たしてどのくらいの端末が登場するのだろうか。

 現在、WiMAX Forum加盟社など80社のメーカーで合計480種類の製品が登場している。内訳は、基地局設備などの提供が35社、データ通信カードやMIDなど端末の提供が30社、チップセットなどの供給が25社となっている。

 WiMAX Forumでは、機器同士の相互接続性を認定するための検証も行っているが、6月末現在の認定製品は移動体サービス向けで10製品、固定系サービス向けで35製品にとどまる。「機器の認定は計画よりも遅れている。だが、2008年内に100製品以上になるので、遅れを取り戻せるだろう」という。国内では年内にWiMAX Forumの日本事務局が検証設備を開設する予定で、2009年以降に機器の相互接続認証が広まる見通しだという。

 「データ通信端末の価格は、第3世代(3G)携帯電話サービス向けのものの半分程度になるだろう。2009年には1台10ドル程度で提供できる」(シャクリ氏)

 現在は組み込み用途向け製品の認定検証も始まっており、2009年後半には車載などの分野にもWiMAX対応製品が登場する見通しだ。

LTEやNGNと競争する?

 次世代の無線ブロードバンドでは、WiMAX以外に3Gサービスを発展させた「LTE(Long Term Evolution、通称3.9G)」や、日本ではウィルコムの次世代PHSサービスも商用サービスも控えている。固定系の世界にも英国や日本において「NGN(次世代ネットワーク)」の構築と、NGNを生かしたブロードバンドサービスが登場している。WiMAXは、これらのサービスと競合関係になり得るのだろうか。

 この疑問に対してシャクリ氏は、「LTEよりもビジネスモデルが確立している。NGNとは共存関係になるだろう」と答える。LTEはNTTドコモが「Super 3G」の名称で研究開発を進め、2009年の実用化を計画しているが、シャクリ氏は選定事業者数や機種の多様性といった点で「2〜3年程度こちらが先行している」と強調する。NGNとは、固定系WiMAXサービスがNGNへのアクセス回線としての役割を果たすことで相互を補う関係になると説明する。

 技術的なロードマップによれば、WiMAXもLTEも2011年ごろには200〜300Mbpsの通信速度を実現する。そして、最終的には「NGMN(次世代モバイルネットワーク)」と呼ばれる段階で統合する方向にある。NGMN(第4世代モバイルサービス「4G」とも呼ばれる)は、数Gbpsクラスの通信速度を目標とし、2009年以降に本格的な検討が始まる見込みである。

 「LTEとWiMAXのどちらが選ばれるかは、通信事業者とユーザーの手に委ねられるだろう。SprintやKDDIのように、3Gの補完としてWiMAXを選ぶ会社もあれば、ドコモのようにLTEを選ぶ会社もある。最終的は共存しながら良い競争関係になっていく」(同氏)


 最後に、シャクリ氏は日本市場での動きがWiMAXの世界普及に向けた指針になると語る。「日本はモバイルインターネットへの関心が高く、他の規格との競争環境もある。日本でのビジネス動向は、他の国や地域のWiMAX事業者にとって大いに参考になるだろう」(同氏)

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