ERP導入によって和洋菓子製造という自社の基幹業務強化に成功したB社だが、その成功要因には以下のようなものが挙げられる。
まず、B社自身が自社の現状や食品製造業界の商慣習を良く理解し、それを的確にERPベンダーに伝えていたことが大きい。具体的には「製造工程における人的ミスを防止するためには、単に原材料データを整理して表示するだけでは不十分である」という固有要件を妥協せずに明示した点が挙げられる。
「同じ商品でも出荷時のケースサイズが出荷先によってまちまちである」という食品製造業界の商慣習を暗黙の了解としなかった点も重要なポイントといえる。初期段階でこうした固有要件や前提条件が正しくベンダーに伝わらないと、ユーザーが意図していたのとは異なるシステムが構築されてしまう。ユーザーは自身が属する業界の慣習についてはそれが当たり前になってしまい、あえてベンダーに伝える必要はないと思ってしまいがちである。初期段階で十分な時間を取り、ユーザーとベンダー双方が暗黙の了解をなくす努力を惜しまないことが重要である。
前回のケーススタディでは、組立製造業において部品発注タイミングをあえて担当者の判断に任せることで、納期短縮と在庫縮小を両立できた例を紹介した。今回は逆で、人間の判断力に頼らずに、システム側でカバーすることで人的ミスをなくす試みである。
原材料投入の作業は作業指示書が生成されれば、後はそれに従って適切な原材料を投入していくだけである。正確さが要求され、かつ都度の状況によって変化する高度な判断を下す必要がない作業であれば、諸々のチェックはシステムに任せてしまう方が安全である。B社の製造工程はまさにシステムによって安全性を担保すべき範疇のものであり、システムによる品質管理工程を適切に構築した事例といえる。
どんなに優れたシステムであっても、現場の作業が煩雑では入力ミスや入力漏れを誘発しかねない。B社の場合は社内の製造工程と販売先店舗に対してハンディスキャナを提供し、原材料チェックや売上情報入力の手間を大幅に軽減した。ERP導入というと、データ整備などに意識が偏りがちで、ユーザーインタフェースまで気が回らないことが多い。だが、こうした入力デバイスの工夫一つで運用段階の業務の効率性はもちろん、正確さにおいても大きな差が出てくるのである。
今回ケーススタディとして取り上げたB社は企業規模としては小さな部類に属する。だが、ERPを活用することで、自社内のみならず、販売先も含めた事業強化を果たした。こうした例は少なくない。B社ではERPとハンディスキャナを連携させたが、大手製造業ではRFIDを使った品質管理向上や、出荷後の部品交換時期の把握などのライフサイクル管理向上への取り組みが進みつつある。今後のERP導入においてはソフトウェアだけでなく、こうした種々のデバイスと連携させたソリューションが増えていくものと予想される。
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