Microsoftを見捨てオープンソースに走ったベテラン開発者Magi's View

オープンソース戦略にも力を注ぐMicrosoftだが、Microsoftからの脱却の流れを形成するものは枚挙にいとまがない。マイク・ガンダロイも、Microsoftに見切りをつけ、オープンソースへと走った1人だ。

» 2008年07月29日 02時50分 公開
[Keith-Ward,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 Microsoft AccessやExcelを使ったことがあるなら、マイク・ガンダロイ氏が手掛けた製品を使っていたことになる。皮肉なことに、ガンダロイ氏自身はもはやこれらの製品を使っていない。Microsoftに見切りをつけ、オープンソースへと走ったからだ。彼に後戻りするつもりはない。

 インディアナ州エバンズビルを拠点として四半世紀の間フリーランスの開発者をしてきたガンダロイ氏は、Microsoftとのかかわりを次のように振り返っている。「フルタイムの社員になったことはなかったが、契約社員のバッジをつけて(レドモンドの)本社キャンパスに出入りしていた時期が何度かあった」

 彼が請負業務(ガンダロイ氏の算定によれば総額50万ドルほど)で書いた相当な量のコードがMicrosoft Office 97および2000のAccessとExcelに使われている。そのほか、SQL Server、C#、ASP.NETなど、Microsoftのソフトウェアとしてはそれほど目立たない部分にも彼は携わっていたという。

 それは実入りのいい仕事だった。しかし、最後の数年はそうでもなく、ガンダロイ氏は嫌気を感じ出した。「ごく初期のころのOffice 2007を目にしたことがある。まだα版のコードだった。不満に思ったコードについてフィードバックを返したところ、ほかの人々によるものも含めてそうしたフィードバックがすっかり無視されていることが分かった。Office 97や2000、2003のときは、そんなことはなかったのだが、Officeチームは部外者の意見の必要性を感じなくなったようだ」(ガンダロイ氏)

 だが、こうした困惑は次に起こることの前触れに過ぎなかった。ガンダロイ氏にとってMicrosoftとの関係の最期は、同社が特許に関する暴挙に出たところから始まった。「Microsoftが自社のリボンインタフェースに関して非知的な所有権を主張し始め、さらに大々的に知的所有権を主張するようになったときには“もうだめだ”と思った。以前と違ってMicrosoftはあらゆるものを特許化するようになった」(ガンダロイ氏)

 Microsoftは、Office 2007製品に導入したリボンインタフェースを何とかして特許化しようと試みていた。リボンは、Officeプログラムのさまざまな機能を扱う一連のコントロールである。ガンダロイ氏は次のように語る。「レドモンドの連中は、コントロールを作成しようとするすべてのコントロールベンダーに対し、リボンの権利はわれわれにあるのだから君たちはMicrosoftからライセンスを受けなければならない、といっていた。各ベンダーは、リボンインタフェースの各部品の所有権がMicrosoftにあることを認めなければならなかった。馬鹿げている、とわたしは思った。コードに著作権はあるが、ユーザーインタフェースにおけるコントロールの配置なんか知的所有権に当たるとはいえない」

 仮にそうなってしまった場合、開発者はベンダー側の特許に抵触しないコードを書くことは不可能になるだろう。「このMicrosoftによる途方もない乗っ取り行為は、わたしをうんざりさせた」(ガンダロイ氏)

 さらに、Linuxをはじめとするオープンソースソフトウェアが235件のMicrosoft特許を侵害している、とのMicrosoftによる2007年5月の悪名高い主張は、ガンダロイ氏が意を決するのに十分なものだった。彼はMicrosoftと決別し、習得すべき新たな言語を探し求めた。Web開発の領域に身を置きたいと考えた彼は、PythonベースのDjangoやRuby on Railsといったオープンソースの言語に目をつけた。最終的にRuby on Rails(RoR)に決めたのは、そちらのプラットフォームの方が開発で収入を得る機会が多く見つかったからだった。

 Microsoftに対するガンダロイ氏の反感は、開発プラットフォーム以外の領域にも表れている。彼の作業環境は“完全にMicrosoft製品を排除”したものになっている。購入したマシンはMacで、それまで使っていたWindowsマシンよりも信頼性が高いという。OpenOffice.orgやNeoOfficeも利用してはいるが、彼がよく使っているのはiWorkだ。

 ガンダロイ氏は2006年からRoRを使っているが、ASP.NETとRoRの最大の違いを次のように説明する。「もう完全にRoRのコードに慣れてしまった。MicrosoftのツールチェインにはIDE(統合開発環境)やドラッグ&ドロップによるビジュアル操作がついてまわったが、今ではテキストエディタを使った10年前の開発形態に戻っている。何かを動かすのではなく、ただひたすらコードを書くだけだ。その方がコードを参照しやすいし、内容もよく把握できる」

 一方、欠点は手の込んだインタフェースを開発しづらいことだとガンダロイ氏は言う。だが全体的には、オープンソースのやり方の方が有利と彼はみている。「無料で使えるというのは非常に強力なポイントだ。ASPでデータベースを構築する場合は、フルライセンスのSQL Serverの構築にコストが幾ら掛かるかを検討しなければならない。(RoRによる開発は)ずっと安くあげられる。もう1つ、大盛況が続くWeb開発に目を向けると、非常に多くの視覚的プロパティがRailsやDjango、あるいは旧式の簡素なPHPで作られている」

 ガンダロイ氏によれば、こうしたMicrosoft離れの傾向は今後も続きそうだという。「Microsoftが絶頂期だったころのレベルにはまだ達していないと思う。だが、オープンソース開発の件数、Firefoxや(Pythonベースの)Googleアプリケーションエンジンなど、これらすべてがMicrosoftからの脱却の流れを形成している」

 オープンソース開発者への転向は、ガンダロイ氏の収入にも影響を与えた。「結果として、開発の時間給は下がった。その気になれば、Microsoftの業務経験者としてもっと高い報酬を(Microsoft関連の開発で)ねらうこともできた。Rails開発コミュニティーにおける報酬のレベルは、この先もMicrosoftでの最高レベルに達することはないだろう」

 それでも彼は不満を言わず、このトレードオフにはそれ以上の価値があると信じている。ガンダロイ氏は語る。「(Microsoftに背を向けオープンソースを支持することによって)最終的にプログラミングという仕事が失われる状況に、手を貸さずに済むようになったのだ」

Keith Wardはフリーランスの技術ジャーナリスト。


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